Rubyに将来性はある?将来が不安視される理由と知られざるメリットや強みを解説
Rubyは1990年代に誕生して以来、多くのエンジニアに愛されてきたプログラミング言語であり、そのシンプルで直感的な構文が特徴です。特にWebアプリケーション開発においては、Ruby on Railsというフレームワークの登場によって、Rubyは一時的に非常に高い人気を誇りました。
しかし、近年では「Rubyには将来性がないのではないか?」といった意見が囁かれています。データサイエンスの台頭や新しいプログラミング言語の登場によって、従来の領域でRubyの利用機会が減少していることも、こうした見解を助長しているようです。
一方で、Rubyには依然として大きなメリットと強みが存在し、その特性を活かしたプロジェクトやビジネスでは今も重要な役割を果たしています。特にベンチャー企業やスタートアップシーンでの人気は根強く、教育コストが低く済む点や開発スピードの速さなどが重宝されているのも事実です。
今回の記事では、Rubyの基本的な特性と「将来性がない」と言われる理由について詳しく解説し、Rubyが持つメリットや他の言語との比較を通じて実際にどのような場面で活用されているのかを見ていきます。Rubyの未来について理解を深め、選択肢として再考していただけるきっかけになればと思います。
Rubyとは
1995年、まつもと ゆきひろ氏(「通称Matz」)によって開発された、日本産としては初のプログラミング言語がRubyです。短くシンプルなコードや柔軟性の高さなどを特徴としており、特にベンチャー企業やスタートアップ企業において多く採用される傾向にあります。2006年には「Programming Language of the Year(今年のプログラミング言語賞)」を受賞し、爆発的な人気を誇りました。
近年では人気が落ち着いてきた印象ですが、他のプログラミング言語と比べても安定して使用されているといえるでしょう。毎月全世界のソフトウェア品質に関して指標を発表している「TIOBE Programming Community Index」によれば、2024年10月現在、Rubyは18位に位置しており、いまだ現役といえます。
※参考:Rubyとは、TIOBE Index
Rubyの特徴と競合言語
Rubyの主な特徴には、オブジェクト指向や動的型付けなどがあります。オブジェクト指向とは、モノ=データおよび処理の関係性を定義し、システムを作成するシステム構成の考え方を指します。動的型付けとは、プログラマが書いたコードに基づき、変数や関数などをプログラム側で解釈・決定する方法です。Webアプリケーション開発・SNS(Web版)開発・ECサイト開発などでよく用いられます。
Rubyの競合言語として挙げられるケースが多いのは1991年に開発された「Python」です。RubyがWebアプリケーション開発に適しているのに対し、Pythonはデータサイエンス分野において適したプログラミング言語であるという違いがあります。
Rubyは将来性がないと言われる理由
Rubyは今後も引き続き活躍が期待できるプログラミング言語ですが、ここで挙げる複数の理由により「将来性がないのでは」と懸念されています。
正しくは、将来性がないのではなく「Rubyの得意不得意が十分に認識されていない」ことによって誤解が生じているのです。まずは、Rubyに将来性がないと誤解されている理由について見ていきましょう。
データサイエンスの分野で使用されない
データサイエンス(データ科学)とは、数学や統計、人工知能(AI)など複数の観点からデータを分析することにより、有益な情報の抽出を目的とする研究分野です。金融・医療・ショッピングなど、生活におけるさまざまな側面で膨大なデータがやり取りされている現代において、データサイエンスの担う役割は大きいといえます。
データサイエンス分野では、プログラム構築にあたって「Python」と「R」という2種類のプログラミング言語を使用するのが主流です。その理由として、この2言語はデータサイエンス分野に特化したライブラリ(ソースコードの保管場所)が充実していることが挙げられます。一方、Rubyはデータサイエンス分野に関するライブラリに恵まれていないため、使用されることがほとんどありません。
Webアプリケーション開発ではLAMPが使用されやすい
RubyはWebアプリケーション開発に適していると述べましたが、「LAMP」と呼ばれるソフトウェアもまた、同開発には適しています。
LAMPとは「Linux」「Apache」「MySQL」「PHP(PerlやPythonのケースもある)」という4種類の頭文字を取ったもので、数多くのWebアプリケーション開発において使用されているのです。LAMPは「コスト削減(一定の範囲内で無償提供が可能なため)」「柔軟さと汎用性の高さ」「需要の多さ」といったメリットがあるため、多くの企業で導入されています。
一方でApacheがクラウド環境下において適していないという理由から、LAMPは古いといわれるケースもあるようです。しかし、昔から多くの企業にて使用されてきた実績があるため、「たとえRubyが適している場合でもLAMPを使用する」企業が絶えないという現状があります。
別言語で代替しやすい
RubyがとりわけWebアプリケーション開発に適していることは間違いありませんが、先述したようにLAMP環境下でも開発は可能です。つまり、開発するのにあたって必ずしもRubyである必要がないという理由が不明瞭なのです。
Rubyでなくとも別のプログラミング言語で代替できるのであれば、慣れ親しんでいる言語や需要の多い言語を選んだ方がよいと考える企業・プログラマは少なくないでしょう。
処理速度が遅い
プログラミング言語は「コンパイラ言語」と「インタープリタ言語」の2種類に分けられますが、Rubyは後者に該当します。「逐次翻訳型」とも呼ばれるインタープリタ言語は、ソースコードを1行ずつ翻訳して実行するため、結果の確認が迅速でデバッグが容易というメリットがあります。しかし、そのシステムゆえに処理速度は遅いのです。
反対に、一括翻訳型と呼ばれるコンパイラ言語は、ソースコードを一括でバイナリコードに変換するため処理速度がインタープリタ言語よりもはやいというメリットがあります。ただし、コンパイルに時間がかかりデバッグが難しいというデメリットもあるのがコンパイラ言語です。
インタープリタ言語の例としてはRubyの他に、PythonやPHP・JavaScriptなどが挙げられ、コンパイラ言語ではJavaやC++、Goなどが挙げられます。
コードが属人化されやすい
Rubyは動的型付け言語であるため、プログラマが書いたコードをもとにプログラム側で解釈・実行が行われます。静的型付け言語のように型を事前に定義していないため、コードを書いた当人以外には内容を把握しづらい場合があります。エラーが起きても原因の究明に時間がかかることもあるでしょう。
Rubyはその柔軟さゆえ、コードの書き方に自由度が高くプログラマの個性が反映されやすい言語です。しかし、この柔軟性が故に他のエンジニアには理解が難しいコードになりがちで、属人化の課題が発生しやすいのも事実です。
Rubyに将来性はある!Rubyのメリット・強み
ここまで説明したように、Rubyにはある種の開発を行ううえで適さないケース・注意すべきケースはあるものの、将来性がない理由にはなりません。適切な開発環境下においては十二分に活躍できるプログラミング言語です。続いて、Rubyのメリットおよび強みについて解説します。
需要は依然として高く安定している
日本発祥のプログラミング言語であるため、国内での需要が高い言語です。また、先に述べたように2024年11月現在の「TIOBE Programming Community Index」においては18位となっております。また、2006年ほどの爆発的人気はなくとも、世界的に見ても安定した人気を誇っています。
Webアプリケーション開発分野においてはLAMP環境が適用されているケースは多いものの、国産であることに加え、Ruby on Railsという便利なフレームワークがあることが人気の理由です。
開発スピードがはやい
Ruby開発者のまつもと ゆきひろ氏は「Rubyをシンプルなものではなく、自然なものにしようとしている」「Rubyの外観はシンプルです」と述べています。
Rubyは「短くシンプルなコード」を特徴としているため、長く複雑なコードを必要とする他のプログラミング言語に比べると、その開発速度は必然的にはやくなるのです。ベンチャーやスタートアップのようなスピード感を要する企業の場合、この速度感は非常に重要といえるでしょう。
※引用元:Rubyとは
学習しやすく教育コストを下げられる
国産のプログラミング言語である点や文法が簡易的であるため、プログラミング言語に初めて触れる方でも習得しやすいという特徴があります。また、不明な点が発生した場合、情報収集すれば日本語の解説・回答が見つかるため、海外産のプログラミング言語よりも簡単に解消できる点もRubyの強みです。
なお、Rubyは動的型付け言語であるため「ソースコードをバイナリコードに翻訳するコンパイル」という作業が不要となります。初心者の方の場合、プログラミング言語におけるコンパイルエラーの原因特定が非常に困難なケースが多く、途中で学習意欲を失うことも少なくありません。しかし、Rubyの場合はその心配がないため、学習意欲を失わずにスキルを付けていくことが可能です。
学習のしやすさと教育にかかるコストの少なさはRubyの大きなメリットといえるでしょう。
コミュニティが活発
プログラミング言語を学習するうえで、「コミュニティ」は欠かせない要素でしょう。開発者や利用者がオンラインでの質疑応答や勉強会で技術力を磨く場としても重要です。
Rubyの場合、公式サイトにも記載されていますが、複数のコミュニティが存在しています。例えば、Ruby利用者を支援する「日本Rubyの会」や、ビジネスシーンにおけるRuby活用ノウハウの共有を目的としている「Rubyビジネス・コモンズ」主催によるものです。IRC(インターネット・リレー・チャット)や、100以上のチャンネルを有するSlackなど、非常に活発なコミュニティが展開されています。個人、あるいは自社のみでは解決できないことがあっても、このようなコミュニティを活用すれば、より有効的にRubyを利用できるようになるでしょう。
※参考:コミュニティ
ベンチャーやスタートアップで人気
Rubyは国産で便利なフレームワークであるRuby on Railsを活用すれば、短期間で開発が可能です。スピード感が重要となるベンチャー企業やスタートアップ企業にとって非常に適したプログラミング言語といえるでしょう。
スピード感だけではなく、ベンチャーやスタートアップでは多額の予算や多くの人員を投じることが難しいと予想されます。そのため、コストの削減が可能である点や情報収集の簡単さ、そしてコミュニティの活用しやすさは有効的といえるでしょう。
ベンチャーやスタートアップ、国内に限った数値ではありませんが、Rubyの市場シェアは着実に高まっています。ソフトウェアの品質管理コンサルティングを行っているオーストラリアの企業Q-Successの調査に基づくと、Rubyは2013年1月時点での使用率0.5%でした。しかし、2024年10月時点では6.0%にまで使用率が上昇していることからも、その人気ぶりと、将来性への期待値の高さがうかがえるでしょう。
※参考:Historical yearly trends in the usage statistics of server-side programming languages for websites
提示年収の高い求人も存在する
Rubyを使用するエンジニアの求人数、および年収は求人媒体、スキルレベルによって異なりますが、比較的堅実といえるでしょう。例えば、2024年11月現在の「Ruby」を含む求人を東京都に絞って検索した場合、以下の求人媒体では表のような結果となりました。
転職・求人サイトGreen | 1,871件 |
doda | 1,797件 |
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年収に関しては、新卒〜3年未満で300万円〜450万円・3年〜5年で450万円〜600万円・5年〜10年で600万円〜800万円となっています。また、10年以上の経験とスキルがあれば800万円〜1,200万円以上が大まかな目安とされているようです。ここに記載している年収はあくまでも目安ですが、十分な経験とスキルがあれば、高い年収の求人に挑戦することも可能でしょう。
Rubyと他言語との比較
最後に、PHP・Python・JavaScriptの3言語とRubyを比較して、将来性を見ていきましょう。
RubyとPHPの比較
Rubyよりも長い歴史を持ち、はるかに多くの場で使用されているPHPは同じWebアプリケーション開発分野を得意とする言語として重要な比較対象たり得るでしょう。PHPと比べると Rubyはその平易さや柔軟さ、そして開発効率の面でも優位といえます。
しかし、PHPは世界的に圧倒的シェアを誇るプログラミング言語である点を忘れてはいけません。PHPに取って代わる存在になる可能性は低いものの、Rubyがその特徴を生かして今後もシェアを拡大していくことは期待できるかもしれません。
RubyとPythonの比較
PythonはRubyのライバル的立ち位置にあるといえます。しかし、RubyがWebアプリケーション開発を得意としているのに対して、Pythonはデータサイエンス分野においてその真価を発揮するプログラミング言語です。
そのため、「どちらが良い」という比較ではなく、どちらの分野において言語を利用するかという観点で見ていくことが重要でしょう。いずれにしても、両者ともに将来性が期待できるプログラミング言語といえます。
RubyとJavaScriptの比較
JavaScriptとの比較に関しても、Pythonと似た内容を述べることが可能でしょう。JavaScriptはフロントエンド開発に特化しているのに対して、Rubyはバックエンド開発に適した言語です。近年では、Node.jsの普及によりJavaScriptもバックエンドで広く使用されていますが、Rubyには依然として根強い支持があり、バックエンドでの使用が続いています。一般的にも、フロントエンドにはJavaScript、バックエンドにはRubyを使用するという形態が浸透しているとされています。
しかし、Rubyがその流れに飲まれるということはなく、むしろ両者が共存することで、より効率的な開発環境を作り出せるでしょう。
Rubyを活用する企業・サービス事例
Rubyを採用する企業やサービスの具体例を紹介することで、実際のビジネスにおける活用例が見えてきます。これにより、Rubyがどのようなプロジェクトに適しているかを理解するのに役立つでしょう。
Ruby on RailsをはじめとするRubyの柔軟性と開発スピードは、特に大規模ユーザー基盤を支えるプラットフォームやスタートアップ企業のシステム開発に最適です。以下は、Rubyを用いて成功している代表的な企業やサービスの事例です。
メルカリ
日本発のフリマアプリであるメルカリは、Ruby on Railsを採用することで、短期間でのプロトタイプ開発や迅速な機能追加を実現しています。メルカリは2013年にリリースされ、瞬く間にユーザー数を増やし、現在では国内外に多くの利用者を抱える大手プラットフォームに成長しました。急激な成長に伴うユーザー数の増加や機能の追加が必要だったメルカリにとって、Ruby on Railsは最適な選択肢だったのです。
Railsの特徴である「迅速なプロトタイプ開発」は、アイデアを早期に形にして市場での反応を確かめるという、メルカリのビジネス戦略と一致しています。さらに、Ruby on Railsの高度なフレームワーク構造は、スムーズな機能追加や保守を可能にし、数百万のユーザーの利用に耐えうる安定性を提供しています。
また、メルカリのエンジニアリングチームは多国籍で、Rubyのシンプルで直感的な構文が新たなメンバーにも学びやすく、グローバルなチームでも効率的に開発が進められることが利点となっています。
クックパッド
料理レシピのプラットフォームであるクックパッドも、Rubyを活用する成功例の一つです。1997年に設立されたクックパッドは、2000年代後半からWebサービス開発にRuby on Railsを導入し、ユーザーフレンドリーなインターフェースや多機能なレシピ検索機能を提供しています。クックパッドのエンジニアリングチームは、Railsの持つ高速な開発性を活かして、ユーザーが新しい料理を探したり、レシピをシェアしたりといった多様な機能を提供し続けています。
Railsは、頻繁な機能更新や改修を求められるプラットフォームに適しており、ユーザーの声に応じた機能改善を迅速に反映できるのも大きな利点です。さらに、クックパッドのような多くのカテゴリにわたるレシピデータを扱うアプリケーションでは、Railsの優れたデータベース管理機能が役立ち、ユーザーが効率的にレシピを検索できる環境を提供します。
また、Rubyの豊富なライブラリを活用することで、画像処理や分析機能を容易に統合し、レシピ投稿や閲覧をさらに便利にしています。クックパッドにとって、Ruby on Railsは日々のユーザー体験を向上させるための重要な基盤です。
GitHub
コードのバージョン管理と共同作業を支援するプラットフォームであるGitHubも、Rubyを採用して開発されています。GitHubは2008年に設立され、エンジニアや開発者たちがプロジェクトのコードを共同で管理できる仕組みを提供するサービスです。数億件以上のリポジトリを扱うGitHubでは、高度なスケーラビリティと、迅速な機能改善が求められ、Ruby on Railsの柔軟性や開発効率が大きな役割を果たしています。
GitHubがRailsを採用した理由の一つは、Railsが提供する「規約に従うだけでよい」というシンプルな設計です。これにより、開発者たちは同じ基準でコードを共有し、迅速に機能開発を進められます。Railsの「DRY原則(Don’t Repeat Yourself)」も、コードの重複を避けながら効率的に大規模な機能を構築するのに役立っています。また、GitHubは複数のプログラミング言語で書かれたリポジトリを管理するための多機能なWebアプリケーションであり、Rubyの柔軟なメタプログラミングの仕組みが複雑な要件にも対応しています。
さらに、Railsの「RESTfulなルーティング」は、GitHub上のリポジトリやプルリクエストといった機能を直感的に管理するのに適しており、リソースを管理しやすくすることでユーザーの操作性を向上させています。RubyとRailsを組み合わせることで、GitHubは世界中の開発者たちが快適に利用できるプラットフォームを提供しています。
まとめ
「Rubyに将来性はない」といわれる原因は、Rubyが得意とするところ、不得意とするところを正しく認識できていないためといえるでしょう。Rubyの苦手分野を取り上げて「使えないプログラミング言語」として切り捨ててしまっているのかもしれません。
Pythonがデータサイエンス分野において活躍できるのと同様に、RubyはWebアプリケーション開発分野においてその力を発揮できます。そして、国産・情報収集が容易・コミュニティが活発というメリットもあります。そのためプログラミング初心者の方やベンチャー・スタートアップ企業にとっては適切な言語といえるでしょう。
大切なのは、プログラミング言語をどのような方向性で使用するか、使用目的に沿っているプログラミング言語は何かを正確に把握することです。総合的に考えると、Rubyは十分に将来性が期待できる言語といえるでしょう。