Amazon Pinpointが2026年にサービス終了へ|背景・影響・代替サービスを徹底解説

AWSが提供するマーケティングコミュニケーションサービス「Amazon Pinpoint」は、これまで多くの企業が通知・メール配信・顧客分析の基盤として活用してきました。しかし、2026年10月30日をもってサービスのサポートが終了することがAWS公式から発表されています。すでに2025年5月20日以降は新規アカウントの作成ができなくなり、段階的に利用制限が進む予定です。
Amazon Pinpointは、メール・SMS・プッシュ通知などを統合的に管理できる利便性や、セグメンテーションやA/Bテストなどの分析機能を備えていたことから、企業のマーケティング活動やトランザクション通知に広く利用されてきました。そのため、今回のサービス終了は単なるツールの停止にとどまらず、通知基盤そのものの見直しが必要となる重要な転換点と言えます。
AWSはサービス終了の理由を「慎重な検討の結果」とだけ発表しており、具体的な背景は明らかにしていません。ただし、AWS全体でサービスの整理が進んでいることや他サービスとの機能重複が増えたことが影響していると考えられます。企業にとっては今後のシステム運用や顧客体験に大きな影響を与える可能性があり、早期に移行計画を立てることが不可欠です。
本記事ではAmazon Pinpointサービス終了の背景とスケジュール、ユーザーへの影響、そして代替サービスの選定ポイントまでを詳しく解説します。AWS内の代替手段と外部SaaSの両面から検討を行い、スムーズな移行のために押さえておくべきチェックリストも紹介します。これからの移行準備に、ぜひ参考にしてください

Amazon Pinpointとは
ここではAmazon Pinpointの概要と主な機能、用途を紹介します。Amazon Pinpointは、さまざまなチャネルを通じてプロモーションや取引メッセージを送信できるほか、分析機能やセグメンテーションなどのマーケティング支援機能を備えたサービスです。
概要と提供されている機能
Amazon Pinpointで利用できる主な機能は以下の通りです。
- マルチチャネルメッセージ配信
電子メール・SMS・プッシュ通知・音声など、複数のチャネルを使い分けてメッセージを配信できます。顧客の状況に合わせて最適な配信方法を選択できる点が特徴です。 - セグメンテーション
顧客や市場をニーズ・属性・行動データなどによって分類できます。Amazon Pinpointでは、収集した顧客データを基にグループを作成し、特定のターゲットに向けて適切なメッセージを届けられます。 - キャンペーン管理
顧客の行動や属性に基づいてターゲットを設定し、メッセージを自動配信するキャンペーンを作成できます。これにより、マーケティング施策の効率化と成果向上が期待できます。 - ファネル分析
顧客が商品購入やサービス利用など、最終的な目標に至るまでの行動を段階的に分析する手法です。Amazon Pinpointを使えば、どの段階で離脱が起きているのかを可視化し改善策を立てることができます。 - リアルタイム通知
特定のイベント(購入完了・登録・エラー発生など)をトリガーとして、自動的にメッセージを送信できます。タイムリーな対応によって顧客満足度を高めることが可能です。 - パフォーマンス分析
送信数・開封率・クリック率などのデータを収集し、コミュニケーションの効果を定量的に把握できます。例えば、メールキャンペーンの成果を数値で比較することも可能です。 - A/Bテスト
同じ期間にA案とB案の2パターンを配信し、どちらがより高い成果を上げるかを検証できます。テスト結果をもとに施策を最適化できるのも大きな魅力です。
主な用途
Amazon Pinpointの主な用途として、以下の3つが挙げられます。それぞれの機能を組み合わせることで、より効果的な顧客コミュニケーションやマーケティング施策を実現できます。
マーケティングオートメーション
マーケティングオートメーションとは、顧客の獲得から育成・販促までのマーケティング活動を自動化・効率化する仕組みです。Amazon Pinpointのセグメンテーション機能やリアルタイム通知を活用することで、MA(マーケティングオートメーション)の実現が期待できます。
例えば、アプリを初回インストールしたユーザーにウェルカムメッセージをプッシュ通知で送信し、その後に機能紹介メールや初回購入を促すクーポン付きSMSを配信することで、顧客との関係構築から定着、販促までを一貫して行えます。
また、以下のような顧客データを組み合わせることで、より精度の高いセグメントを作成することも可能です。
- 年齢・性別・居住地などのユーザー属性
- アプリの利用状況や閲覧履歴
- 購入履歴や行動データ
これにより、特定ターゲットに最適化された高度なマーケティング施策を自動化できます。
トランザクション通知
トランザクション通知とは、ユーザーの特定の行動をトリガーとして自動送信される通知のことです。
例えば、ネット通販における注文確認メール、商品発送通知、配達完了のお知らせ、返品・返金手続き完了通知などが該当します。
これらはマーケティング目的のメッセージとは異なりますが、顧客の信頼獲得とエンゲージメント向上のうえで非常に重要です。Amazon PinpointのAPIを活用すれば、既存のアプリやシステムと連携し、確実かつリアルタイムにユーザーへ通知を送信できます。
ユーザーの行動分析
Amazon Pinpointではユーザーが目標達成に至るまでの行動をファネルとして定義し、各段階でどの程度離脱が発生しているかを可視化できます。これにより、どのポイントがボトルネックになっているかを把握し、改善につなげられます。
さらに、A/Bテスト機能を利用すれば、メッセージの文面や配信タイミングを比較検証し、最も成果の高いパターンを見つけることも可能です。分析結果はダッシュボードでまとめて確認できるため、改善サイクルを効率的に回すことができます。
Amazon Pinpointサービス終了の背景
多くの企業で活用されてきたAmazon Pinpointですが、すでにサービス終了が正式に発表されています。
ここでは、終了が決定した背景やスケジュール、そして今後の対応について解説します。
終了の正式発表とスケジュール
AWSは、Amazon Pinpointのサポートを2026年10月30日に終了すると発表しました。それに先立ち、2025年5月20日以降は新規アカウントの作成ができなくなります。ただし、受付停止日より前から利用している既存ユーザーについては、完全終了までは継続して利用可能です。
- 2025年5月20日:新規アカウント作成停止
- 2026年10月30日:サポート終了・サービス完全終了
参考:Amazon Pinpoint のサポート終了(AWS公式)
サービス終了の背景
AWSはサービス終了について「慎重に検討した結果」とだけ発表しており、具体的な理由には触れていません。ただし、一般的に次のような要因が影響していると考えられます。
1. AWS全体でのサービス見直しが進んでいる
Amazon Pinpointの終了が発表された時期には、AWS IQ、AWS IoT Analytics、Amazon Inspector Classicなど複数のサービスも同時期に終了が告知されています。この動きから、AWS全体でサービスの整理・統合を進めている可能性が高いと見られます。
2. 利用者層が限定的だった
Amazon PinpointはAWSの他サービスと連携しやすく、開発者には便利な一方で、マーケターにとっては専門的で扱いづらい側面がありました。近年では、マーケティングオートメーションを実現できるノーコード型SaaSが増え、直感的に操作できる代替サービスも多く登場しています。SaaSとは、例えば次のようなツールを指します。
- メール配信システムを(blastengineなど)
- 会計ソフト(freeeやマネーフォワードなど)
- CRM(HubSpotなど)
こうしたサービスの拡大によりPinpointの費用対効果が低下し、AWS全体の収益性に影響を与えた可能性があります。
3. 他のAWSサービスとの機能重複
Amazon Pinpointの多くの機能は、他のAWSサービスと重複しています。たとえば以下のようなサービスが代替候補として挙げられます。
- Amazon Connect
顧客対応・コンタクトセンター機能 - AWS End User Messaging
エンドユーザー向けメッセージ配信機能 - Amazon Kinesis
リアルタイムデータ分析・ストリーミング処理
これらのサービスを活用することで、Pinpointの役割を補完・強化できるため、AWSとしてはサービス統合の方針を取ったと考えられます。
サービス終了までの流れ
AWSはユーザーの移行を支援するため、新規受付停止から完全終了まで約1年半の移行期間を設けています。企業はこの間に、影響範囲の把握と代替サービスの選定を進める必要があります。移行に向けた主なステップは次の通りです。
- 現在Amazon Pinpointに依存しているシステムやアプリを洗い出す
- 連携しているAWSサービスや外部SaaSを確認する
- 代替候補を比較検討(AWS内か外部SaaSか)
- 機能・料金・サポート体制などを考慮して移行計画を策定する
AWSサービスでの代替を選ぶ場合は統合性の高さがメリットとなり、外部SaaSを選ぶ場合はUIの使いやすさや運用負担の軽減などが魅力になります。
ユーザーへの影響と課題
Amazon Pinpointのサービス終了は、単にひとつのツールが使えなくなるという問題にとどまりません。
多くの企業では通知基盤の一部としてAmazon Pinpointを利用しているため、技術面・運用面・ビジネス面のいずれにも影響が及ぶ可能性があります。ここでは、具体的な影響と今後の課題を整理して解説します。
通知基盤への影響
Amazon Pinpointは、多くの企業で自社アプリや他のAWSサービスと連携して利用されています。そのため、サービス終了によってこれらの通知基盤が崩れるリスクがあります。
例えば、API連携が利用できなくなることで、顧客に対して注文確認や認証コードなどの重要な通知を送信できなくなる恐れがあります。結果として、ユーザーがログインできなかったりサービスの利用そのものに支障をきたす可能性もあります。
また、SMS・プッシュ通知・メールといった複数の配信方法を一元管理できなくなるため、システムの再構築や代替基盤の整備が必要になります。これには時間とコストがかかり、移行計画を立てずに放置すると運用に大きな混乱を招くおそれがあります。 想定される技術的影響は以下の通り。
- API連携を利用した自動通知が停止
- メール・SMS・プッシュ通知の配信が分断
- 既存アプリやバックエンドとの接続エラー発生
- 新システム構築・移行に伴う開発コストの増加
ビジネス面でのリスク
通知基盤の停止は、顧客エンゲージメントの低下やビジネスチャンスの損失にも直結します。これまでAmazon Pinpointで実現していたセグメンテーション配信やリアルタイム通知、プッシュ通知・メール配信などが一元管理できなくなり、顧客体験の質が低下する可能性があります。
また、A/Bテストやキャンペーンなどの継続的なマーケティング施策を実行中の場合、サービス終了とともに中断を余儀なくされます。これにより、これまで投資してきた費用・人的リソースが無駄になるリスクもあります。
さらに、短期間で代替サービスを導入する必要がある企業では、社内オペレーションの見直しや新ツールの習熟に伴う教育コストも発生します。移行作業を計画的に行わないと、顧客対応やキャンペーン運用に遅れが出ることも考えられます。
Amazon Pinpointの代替サービス(AWS内での代替)
Amazon Pinpointのサービス終了に伴い、企業は新たな通知・マーケティング基盤の構築を検討する必要があります。移行先は大きく分けて「AWS内の代替サービス」と「外部SaaS」の2種類があり、どちらを選ぶかによって拡張性・柔軟性・導入スピードが異なります。ここでは、まずAWS内で利用可能な代替サービスについて見ていきましょう。
AWS内での代替は、既存のインフラとの親和性が高く、柔軟な構成を組めるのが大きな強みです。ただし、開発や設定の工数が必要になるため、即時移行が難しいケースもあります。主な代替候補は以下の通りです。
Amazon SNS(Simple Notification Service)
AWSが提供するメッセージングサービスで、プッシュ通知やSMS配信を実現できます。APIを通じてシステム連携できるため、アプリやWebサービスへの自動通知に適しています。拡張性が高く、大規模なメッセージングにも対応可能ですが、キャンペーン管理や分析機能は非搭載のため、単体ではマーケティング用途にはやや不向きです。
Amazon SES(Simple Email Service)
AWSが提供するメール送信サービスです。API経由でトランザクションメール(注文確認・認証メールなど)やマーケティングメールの送信が可能です。ただし、セグメンテーションやA/Bテストなどのマーケティング機能は搭載されていません。そのため、必要に応じて他サービスと連携して利用する形になります。
例えば、Amazon EventBridgeやAWS Lambdaと組み合わせることで、ユーザーの行動をトリガーにした自動メール送信を構築できます。
Amazon EventBridge
AWSが提供するイベント駆動型の連携サービス(イベントバス)です。アプリやシステム内で発生するイベントを受け取り、定義したルールに基づいて他のAWSサービスや外部システムへ連携できます。
例えば、「ユーザーが商品をカートに追加した」というイベントを検知して、SNS経由で通知を送信したり、SESでメールを自動配信したりといった処理の自動化が可能です。
その他の活用可能なAWSサービス
Amazon Pinpointの代替には、以下のようなAWSサービスの組み合わせも検討できます。
- AWS Lambda
サーバーレスで通知ロジックを構築できる - Amazon DynamoDB
ユーザーデータやイベント履歴を管理するためのデータベース - Amazon Kinesis
リアルタイムデータを分析し、ユーザー行動に応じた配信トリガーを設定可能
これらを組み合わせることで、Amazon Pinpointと同等、もしくはそれ以上の柔軟な通知基盤を構築することができます。
Amazon Pinpointの代替サービス(外部SaaSでの代替)
外部SaaSはサービスの仕様に依存するものの、マーケティングに必要な機能があらかじめ備わっているため比較的スムーズに移行できるのが特徴です。
AWS内のサービスに比べて開発工数を抑えやすいため、外部サービスを利用する企業も増えているのも事実です。ここでは主な代替候補となる外部SaaSを紹介します。
Braze
Brazeは、2011年にアメリカ・ニューヨークで設立されたカスタマーエンゲージメントプラットフォームです。プッシュ通知・電子メール・SMSなどの配信チャネルを一元管理できるほか、データ分析機能も充実しています。
また、キャンバスフロー機能によって、ドラッグ&ドロップ操作で直感的にカスタマージャーニー(顧客体験の流れ)を設計できる点が大きな特徴です。料金は公開されていないため、導入を検討する場合は公式サイトからの問い合わせが必要です。運用規模や配信チャネル数によって費用が変動する仕組みになっています。
また、海外サービスのため日本国内へのメールの到達率など、不安な点もあります。
SendGrid
SendGridは、クラウド型のメール配信プラットフォームです。自社でメールサーバーを構築する必要がなく、アカウントを作成するだけで簡単にメールを送信できます。配信機能・分析・レポート・リスト管理などの基本機能が揃っており、メール配信に特化した代替候補として有力です。
さらに、親会社のTwilioとの連携により、電子メール以外のコミュニケーションチャネル(SMSや音声など)も活用できる点が強みです。これにより、複数チャネルを活用した統合的な顧客コミュニケーションが実現しやすくなります。
ただし、SendGridも海外サービスのため日本国内へのメールの到達率や、管理画面が英語である点もの不安要素となります。
Twilio
Twilioは、クラウドベースのAPIプラットフォームで、電話・SMS・チャットなど幅広いコミュニケーション機能を提供しています。API経由でこれらの機能をアプリやシステムに組み込めるため、開発者が柔軟にエンゲージメント機能を設計できます。
また、傘下のSendGridと組み合わせれば、マーケティングからトランザクション通知まで一元的なコミュニケーション基盤を構築可能です。なお、Twilioの日本での代理店だったKDDIウェブコミュニケーションズは、2023年5月1日をもって契約を終了しました。そのため、日本国内での代理店契約やサポート体制の最新情報については、公式サイトや公表資料を確認することをおすすめします。
blastengine(ブラストエンジン)

blastengineは、株式会社ラクスライトクラウドが提供する高性能なメール配信サービスです。国内サーバー環境で運用されており、高い到達率と安定した配信性能を強みとしています。SMTPリレーでの連携だけでなく、API連携に対応しているため、Amazon Pinpointのようにシステム通知やトランザクションメールの自動送信にも活用可能です。
また、専門知識がなくても扱いやすい管理画面と国内サポート体制を備えており、非エンジニアでも運用を継続しやすい点も特徴です。AWS内サービスに比べて導入ハードルが低いため、メール配信の代替サービスとして、以下のような企業にはおすすめです。
- AWS依存から脱却して安定した配信基盤を構築したい
- システム通知や取引メールを確実に届けたい
- 国内サポートと高い到達率を重視したい
レンタルサーバーのメール配信機能ではメールが届かないこもが多々あります。そんなときは、ブラストエンジンと連携することによって手間をかけずにメール到達率を高めることが可能です。また、ブラストエンジンは各メールプロバイダーや携帯キャリアのドメインに最適化されており、大規模なネットワークを経由してメール配信を行うことで、日本国内での到達率を圧倒的に高めています。
利用料金は月額3,000円からとコストパフォーマンスにも優れており、メールだけでなく、日本語での電話サポートにも対応しています。メールアドレスの入力のみで無料トライアルが可能ですので、まずは気軽にお試しください。
Amazon Pinpointからの移行のチェックポイントと注意点
外部SaaSへの移行を進める際には、以下のポイントを押さえておきましょう。
要件を再定義する
現在Amazon Pinpointで利用している機能や運用フローを整理し、代替サービスに必要な要件(配信チャネル、分析機能、API対応など)を明確にしましょう。これにより、移行の目的や課題を明確化し、最適なサービスを選定できます。
データの整合性を保つ
顧客データや配信停止リストなど、移行対象となるデータの一覧を作成しましょう。特に配信停止リストの移行に失敗すると、配信を希望しないユーザーに誤ってメールを送信してしまうリスクがあります。顧客プロフィールやセグメント情報、エンゲージメント履歴などを含め、移行範囲を正確に定義することが重要です。
システム改修範囲を見積もる
既存アプリがAmazon PinpointのAPIやSDKを利用している場合、代替サービスへの対応改修が必要です。そのため、開発工数やスケジュールを見積もり、影響範囲を事前に確認しましょう。特にモバイルアプリの場合は、ユーザーにアップデートを促す必要があるため、十分な余裕を持ったスケジュール設計が求められます。
まとめ
Amazon Pinpointのサービス終了は単なるツールの廃止ではなく、企業の顧客コミュニケーション基盤そのものを見直す機会でもあります。通知・メール配信・マーケティングオートメーションを担っていた機能が停止することで、システムの再構築や新たなプラットフォームへの移行が必要になります。
AWS内のサービス(SNS・SES・EventBridgeなど)を活用すれば柔軟性を維持できますが、開発リソースが必要です。一方で、BrazeやSendGrid、blastengineなどの外部SaaSを活用すれば、短期間で運用を再開しやすく、マーケティング担当者でも扱いやすい環境を構築できるでしょう。
サービス終了までの約1年半という移行期間を有効に使い、顧客体験を損なわないシームレスな移行を目指しましょう。
