DDoS攻撃とは?仕組みから目的、種類、対策まで徹底解説

インターネットを利用する企業や組織にとって「DDoS攻撃」は決して他人事ではありません。近年DDoS攻撃の件数は増加し、その手口も巧妙化しています。大手企業や政府機関、ECサイト、オンラインゲームなど、多くのサービスがDDoS攻撃の被害を受け数時間から数日間にわたりサービス停止を余儀なくされるケースも珍しくありません。
DDoS攻撃は単なる迷惑行為ではなく企業のビジネス継続を脅かす重大なリスクです。例えば、オンラインショップが攻撃を受けてダウンすれば売上の損失だけでなく、顧客からの信頼も失う ことになります。また、サービス停止が長引けば競合他社に顧客を奪われる可能性も高まります。
DDoS攻撃の目的は多岐にわたり、金銭の要求、競争相手への妨害、政治的な抗議行動、さらには他のサイバー攻撃のカモフラージュ(陽動)として利用されることもあります。一度攻撃を受けると完全に遮断するのは困難であり、企業は攻撃を未然に防ぐための対策を講じる必要があります。
本記事ではDDoS攻撃の仕組み、攻撃の種類、被害事例、そして効果的な防御策 について詳しく解説します。DDoS攻撃のリスクを理解し適切な対策を講じることで、あなたのビジネスを守るための準備を整えましょう。

DDoS攻撃とは
DDoS(ディードス)攻撃は複数のコンピューターから大量のデータを送信し、ターゲットサーバーのリソースを枯渇させるサイバー攻撃の一種です。
例えば、人気イベントのチケット販売サイトがアクセス集中でつながりにくくなることがありますが、DDoS攻撃はこれを意図的に引き起こすものです。
DDoS攻撃の仕組み
DDoS攻撃は複数のコンピューターを使い、大量の通信を発生させて標的のサーバーに負荷をかける手法です。攻撃には高度なプログラミングスキルは必要なく、大量のコンピューターを用意できれば比較的容易に実行できてしまいます。DDoS攻撃の主な特徴は次のとおりです。
- ボットネットの活用
攻撃者はマルウェア(ボット)に感染したデバイス群(ボットネット)を操作し、一斉に攻撃を仕掛けます。 - 攻撃元の分散
世界中に散らばる複数のデバイスが攻撃を行うため、攻撃元の特定が難しくなります。 - サーバーのリソース枯渇
大量のリクエストを送ることで、ターゲットの処理能力を超えさせ、正常なユーザーのアクセスを妨げます。
DDoS攻撃の種類
DDoS攻撃にはさまざまな種類があり、攻撃手法によって影響が異なります。以下に主なものをまとめました。
名称 | 攻撃方法 | 影響 |
---|---|---|
SYNフラッド攻撃 | 接続元を偽装し、大量のデバイスから接続要求を送る | システムやサーバーの脆弱性を引き起こす |
FINフラッド攻撃 | 接続元を偽装し、大量のデバイスから切断要求を送る | システムの異常動作を誘発 |
UDPフラッド攻撃(ランダムポート型) | ランダムなポート番号と偽の送信元アドレスを含んだUDPパケットを大量送信 | サーバーリソースを消費し、機能停止に追い込む |
UDPフラッド攻撃(フラグメント型) | 分割したUDPの最初だけ送る、または大きなサイズのUDPパケットを突然大量に送る | ファイアウォールやネットワーク機器に負荷をかける |
ACKフラッド攻撃 | ACKパケットを大量に送りつける | 正規のアクセス処理を妨害し、サーバーの帯域幅を圧迫 |
DNSフラッド攻撃 | DNSサーバーに大量のリクエストを送信 | DNSの正常な動作を阻害し、ドメイン名の解決を妨げる |
Slow HTTP DoS Attack | HTTPリクエストを細かく分割し、不完全な通信要求を低速で送り続ける | サーバーのTCPセッションを長時間占有し、他のユーザーのアクセスを妨害 |
DoS攻撃との違い
DoS(ドス)攻撃とは単一のコンピューターから特定のウェブサイトやサーバーに過剰なリクエストを送り、サービスを妨害するサイバー攻撃です。主なDoS攻撃の手法は以下の通り。
- メールボム攻撃
大量のメールを特定のアドレスに送りつけ、メールサーバーの処理能力を超えさせる。 - F5攻撃
Webサイトを手動またはスクリプトでひたすら再読み込み(リロード)し、サーバーに負荷をかける。
一方、DDoS攻撃は複数のコンピューターを使用するため、より大規模かつ強力な攻撃となります。DoS攻撃ではボットネットを活用し大量のデバイスから同時にリクエストを送信することで、DoS攻撃よりも大規模な被害を引き起こします。
DDoS攻撃の目的
DDoS攻撃の目的は金銭目的の脅迫から単なる嫌がらせまで多岐にわたります。ここでは、DDoS攻撃が行われる主な理由を紹介します。
身代金の要求・脅迫
DDoS攻撃を悪用したサイバー犯罪の中でも代表的なのが金銭を要求する手口です。
攻撃者は企業や団体に対して小規模なDDoS攻撃を仕掛け「さらに激しい攻撃を受けたくなければ金を払え」と脅迫します。また、「金を払わなければDDoS攻撃を実施する」と事前に警告するケースもあります。しかし、攻撃者に対して安易に金銭を支払うのは避けるべきです。
- 一度支払っても攻撃が止まる保証はない
- さらなる金銭を要求されるリスクが高まる
- 他の犯罪者グループにも標的にされやすくなる
企業は攻撃を受けた場合でも適切な対策を講じて対応し、犯罪者の要求には応じない姿勢を貫くことが重要です。
嫌がらせ
特定の目的がない場合でも「嫌がらせを楽しむ」「自分の技術力を試したい」といった動機でDDoS攻撃を行う愉快犯が存在します。
また、個人的な恨みから特定の組織や企業を攻撃するケースもあります。攻撃者に明確な目的がなくても被害を受けた側は業務に大きな支障をきたす可能性が高く、特にオンラインサービスを提供する企業にとっては深刻な問題となります。
営業妨害
競争の激しい業界では同業他社によるDDoS攻撃が営業妨害の手段として使われることもあります。DDoS攻撃を受けると、Webサイトやオンラインサービスが遅延・停止し、以下のような被害が発生します。
- 商品の購入ができなくなる
- オンラインゲームや動画配信などのサービスが利用できなくなる
- サーバーのダウンにより、問い合わせ対応が困難になる
このような攻撃が続くと企業の売上が減少するだけでなく、ブランドイメージや顧客の信頼も損なわれ最終的には競合他社にユーザーが流れるリスクが高まります。
抗議
企業や団体の方針に不満を持つ人々がDDoS攻撃を抗議の手段として利用するケースもあります。
特に政治的な問題や社会的な議論の中で、過激な抗議活動の一環としてDDoS攻撃が仕掛けられることがあります。企業や政府機関にとっては、こうした攻撃に対する防御策を強化することが求められます。
陽動
DDoS攻撃自体はサーバーに負荷をかける手法ですが、他のサイバー攻撃と組み合わせることで情報漏えいやデータ盗難の手助けをすることがあります。
例えば、攻撃者はまずDDoS攻撃を仕掛けてターゲットのサーバーを混乱させます。管理者が復旧対応に追われる中、別の攻撃者がその隙を突いて情報システムへ侵入し機密データを盗み出すのです。
こうした陽動作戦はDDoS攻撃単体よりもさらに深刻な被害を引き起こす可能性があるため、企業や組織はDDoS対策だけでなくセキュリティ全般の強化が不可欠です。
DDoS攻撃への対処方法
DDoS攻撃が発生してしまった後に、それを完全に遮断するのは容易ではありません。そのため、事前に対策を講じることが重要 です。ここではDDoS攻撃が発生した際の対処方法や有効な対策ツールを紹介します。
IPアドレスの制限
攻撃元のIPアドレスを特定しアクセス制限をかけるのはDDoS対策の基本のひとつです。ただし、以下の点に注意が必要です。
- DDoS攻撃は多数のIPアドレスから行われるため、すべてを特定するのは困難
- 過去には数千万のIPから攻撃が確認されており、IP制限だけでは防ぎきれない
- 正規ユーザーが誤って制限されるリスクがある
そのため、IP制限だけに頼るのではなく他の対策と組み合わせることが重要です。
特定の地域からのアクセス制限
特定の地域からのアクセスを制限することもDDoS攻撃のリスクを低減する方法のひとつです。特に国内向けサービスなど特定の地域のユーザーしか利用しない場合は、該当地域以外のアクセスを制限することで不要なトラフィックを減らせます。ただし、以下のような注意点もあります。
- 海外在住の正規ユーザーのアクセスを誤ってブロックしてしまう可能性がある
- 攻撃者がVPNやプロキシを使用すると、地域制限を回避されることがある
導入する際は影響範囲をしっかり検討し、慎重に設定することが重要です。
CDNの導入
CDN(Content Delivery Network)は、分散配置されたキャッシュサーバーを活用し、Webコンテンツを高速に配信する技術です。CDNがDDoS攻撃の緩和に有効な理由は以下の通り。
- アクセスを分散し、オリジンサーバーへの負荷を軽減できる
- 攻撃トラフィックがキャッシュサーバーで分散されるためDDoSの影響を最小限に抑えられる
ただし、CDNには限界もあります。CDNはあくまでコンテンツ配信を最適化するための技術であり、セキュリティツールではありません。そのため、DDoS攻撃などのサイバー攻撃を検知・遮断する機能は備えていません。
また、動的コンテンツが多いWebサイトではキャッシュの活用が難しくCDNの効果が限定的になる場合があります。したがって、DDoS対策を考える際にはCDNだけに頼るのではなく、WAFやIPSなどのセキュリティ対策と併用することが重要です。
DDoS攻撃対策ツールの導入
DDoS攻撃を防ぐためには、専門のセキュリティツールを導入するのも有効です。代表的なものとして WAF(Web Application Firewall) や IPS(不正侵入防御システム) があります。
- WAF(Webアプリケーションファイアウォール)
Webアプリケーション層の通信を監視し、攻撃と判断した通信を遮断する。特に、SQLインジェクションやクロスサイトスクリプティング(XSS)などの攻撃にも対応できる。 - IPS(不正侵入防御システム)
ネットワーク上の不正なトラフィックを監視・検知し、異常なアクセスを自動でブロックする。DDoS攻撃だけでなく、他のサイバー攻撃にも対応可能。
まとめ
DDoS攻撃は、インターネット上のあらゆる企業や組織にとって大きな脅威となっています。攻撃の目的は金銭的な脅迫、営業妨害、抗議活動などさまざまであり、一度ターゲットにされると大きな被害を受ける可能性があります。
企業がDDoS攻撃から身を守るためには、IPアドレス制限、地域制限、CDNの導入、WAF・IPSの活用など、複数の対策を組み合わせて実施することが重要です。また、日頃からシステムの監視を行い、攻撃を受けた際の対応手順を整えておくことも不可欠です。
DDoS攻撃は今後も進化し続けると考えられますが、適切な対策を講じることで、そのリスクを最小限に抑えることができます。本記事で紹介した内容を参考に、DDoS攻撃に強い環境を構築し、事業の継続性を守るための準備を始めましょう。
