ラボ型開発とは?請負型開発との違いやメリット・デメリット、向いているケースなど徹底解説
オフショア開発やニアショア開発など、システム開発にはさまざまな開発手法があります。その中でも、IT人材不足を補うため「ラボ型開発」という開発手法が注目されています。
ラボ型開発は近年多くの企業が選択する開発スタイルの一つであり、特に中長期的なプロジェクトや継続的な開発案件において注目されています。通常の請負型開発と異なりラボ型開発では企業が開発チームをまるごと外部に設置し、そのチームが継続的に企業のプロジェクトに従事します。
この開発手法は柔軟な体制でプロジェクトを進行し、仕様変更やプロセスの改善を容易に行える点で大きなメリットがあります。特に技術的なスキルを持ったチームを中長期的に確保できることから、ラボ型開発は開発の内製化を目指す企業や技術力を蓄積したい企業にとって魅力的な選択肢です。
本記事では、ラボ型開発と請負型開発の違いや、ラボ型開発が向いているケースについて解説します。また、ラボ型開発のメリット・デメリットもあわせて確認しておきましょう。
ラボ型開発とは
ラボ型開発とは、エンジニア開発チームを外部で編成し、長期間にわたり開発を依頼するシステム開発手法です。海外の企業に委託したり、リソースを活用したりするオフショア開発の一種で、オフショア開発センターやラボ契約とも呼ばれます。
民法第656条「準委任契約」に基づく契約形態に該当し、契約期間中は決められた業務を専属の開発チームで遂行することを約束するものです。開発会社は一般的に半年から1年ほどの中長期契約を結び、発注元(委託する側)の企業のみのプロジェクトを扱います。
そのため「継続的にプロジェクトが発生するが、自社の人的リソースのみでは足りない」という場合に、外部に優秀な人材を一定期間確保できる方法として活用されています。
ラボ型開発と請負型開発の違い
ラボ型開発と似ている開発手法として、請負型開発が挙げられます。
どちらも外部のエンジニアチームにシステム開発を依頼する点では同じです。しかし、大きな違いとして、ラボ型開発では「一定期間エンジニアを確保する契約」を結びますが、請負型開発では「完成させて納品まで遂行してもらう契約」を結びます。請負型開発は、プロジェクトの完遂を目的に契約を結ぶ開発方法です。
その他、ラボ型開発と請負型開発の主な違いは、以下のとおりです。
項目 | ラボ型開発 | 請負型開発 |
---|---|---|
契約期間 | 6か月~1年の中長期 | 短期 |
契約形態 | 準委任契約(民法第656条) | 請負契約(民法第632条) |
開発モデル | 発注元と依頼先で決定する | 開発者が決定する |
責任範囲 | 決められた作業を遂行し、成果物の完成には責任なし | 契約期間内に成果物を納品する |
開発体制 | ウォーターフォール型アジャイル型 | ウォーターフォール型 |
向いているケース | ・定期的に依頼する案件がある・既存サービスの運用や改修・仕様変更が予想される場合 | ・単発の案件を外注したい・仕様が決まっている場合 |
ラボ型開発のメリット
ラボ型開発のメリットには、長期間スキルを持った人材を確保できたり、コストを抑えられたりすることが挙げられます。ここでは、各メリットについて詳しく見てみましょう。
長期間スキルを持った人材を確保できる
ラボ型開発の大きなメリットは、長期間にわたりスキルを持った人材を確保できることです。スキルのある人材の確保は、人材の育成や採用の手間も省けます。
また、請負型開発では、依頼先の企業が並行して携わっている案件もあります。そのため、発注元が希望する期間、人材を確保できる保証はありません。特に、プロジェクトリーダー以上の優秀な人材は、他社からアサインされる可能性が高まります。再び依頼しようとしても、すでに他の案件に携わっているという場合もあり得るでしょう。
その点、ラボ型開発では、契約期間中は発注元の専属開発チームとなります。途中でメンバーが入れ替わるケースはないため、優秀な人材を一定期間確保し、ノウハウや情報を共有しながら開発をスムーズに進められるでしょう。
コストを抑えやすい
開発コストを抑えやすいことも、ラボ型開発のメリットの一つです。ラボ型開発の費用は、エンジニアの人数と期間によって決まるため、契約期間内に修正や変更の依頼を行っても、追加の費用は原則発生しません。一方、請負型開発であれば、再度見積もりを行うだけでも追加費用が発生するケースがあります。よって、ラボ型開発の方がコストを抑えながら、柔軟に開発を進められるでしょう。
また、オフショアによるラボ型開発を行えば、人件費を抑えられます。オフショア開発は、インドネシアやタイ、ベトナムなど日本より人件費の低い国に開発を依頼し、行われることが一般的です。システム開発でかかる人件費は、コスト全体の7割以上とも言われているため、人件費を抑えることで開発コストを大幅に抑えられます。
仕様変更や修正がしやすい
ラボ型開発は、契約期間中であればエンジニアチームは発注元の指示に従って作業を進めることができます。そのため、システム開発の途中で修正が必要になったり仕様を変更したりする場合でも、新規に見積もりをし直す必要なく、契約時に支払った費用の範囲内で対応してもらえます。
また、契約時には仕様や要件がはっきり決まっていない状態でも、開発しながら内容を決めていくという方法も可能です。
ノウハウを蓄積できる
ラボ型開発では、一定期間同じチームメンバーで開発を進めるため、依頼先と発注元で開発に関する共通のノウハウが蓄積されます。そのため、システム開発のクオリティアップやスピードアップに期待できるでしょう。
一方、請負型開発ではプロジェクトごとにチームを新規に組み直すため、認識のすり合わせを一から行う必要があります。このような過程がない分、ラボ型開発は時間や工数を大幅に削減できます。
円滑なコミュニケーションが取れる
契約期間中にチームメンバーが固定されるため、円滑なコミュニケーションが取れるようになることもメリットです。長期にわたり何件もの案件をこなすことで、チームメンバー同士や、依頼先と発注元の良好な関係性が構築されやすいでしょう。円滑なコミュニケーションにより、開発もスムーズに進めることができるでしょう。
また、継続的に同じチームで作業を進めると、共通の経験値を積めます。開発に関する共通の認識と、チーム内の風通しの良さは、質の良い開発にもつながります。
ラボ型開発のデメリット
ラボ型開発には、多くのメリットがありますが、デメリットも存在します。開発を成功させるためにも、デメリットについても確認しておきましょう。
一定量の発注がなければ費用対効果が下がりやすい
ラボ型開発のデメリットとして、一定量の発注量がなければ、費用対効果が下がりやすいことが挙げられます。ラボ型開発では、チームメンバーとの契約期間中に依頼する案件が多くても少なくても、必要な費用は変わりません。そのため、発注量が少なければ、コストパフォーマンスが下がり、請負型開発で個別に契約した方がコストを抑えられる場合があります。
しかし「常に人員が不足している」や「継続して常に案件を依頼する」場合は、ラボ型開発の費用対効果が高いといえるでしょう。
チームの立ち上げに時間がかかる
開発チームを立ち上げるには、一定の準備期間が必要です。まず、半年から1年の中長期にわたり、自社案件を任せられるようなチームメンバーを選定しなければなりません。自社が希望する技術やノウハウを持っている人材を見極めて、チームを編成する必要があります。
なお、開発会社によっては、発注元が人材を選べない場合があるため、要望を聞いてもらえる依頼先を探すことが大切です。
チームメンバーが確定したら、自社のノウハウや開発プロセスのレクチャーを行ったり、指揮系統を確認したりします。一般的な社内プロジェクトを立ち上げる時と同様の準備が必要です。
発注元のマネジメント負荷が大きい
ラボ型開発は、発注元のマネジメント負荷が大きくなるデメリットがあります。
請負型開発では、発注元が開発チームに技術仕様書や要件定義書を渡して発注するのみで、その後は開発チームに任せます。一方、ラボ型開発では、発注元が開発チームに指示を出したりチェックをしたりするなど、自社開発と同様のマネジメントを行わなければなりません。
また、初めにチームの人員選定から行う必要があり、開発中もメンバー管理が求められます。
このように、自社の専属開発チームを持つことはメリットもありますが、マネジメント負荷が大きいといったデメリットも把握しておく必要があるのです。
ラボ型開発が向いているケース
ラボ型開発と請負型開発、どちらの開発方法でプロジェクトを進めるか、悩んでいる方も多いのではないでしょうか。ここでは、ラボ型開発に向いているケースを紹介します。
既存のアプリやWebサービスの運用・改修の場合
既存のアプリやWebサービスの運用・改修を行う場合は、ラボ型開発がおすすめです。
アプリやWebサービスの運用には、定期的な改善や不具合への対応が必要になります。決められたサービスのメンテナンスを継続的に行う作業は、同じ開発チームが携わるラボ型開発の特性と非常に相性が良いと言えるでしょう。かつ、オフショアによるラボ型開発であれば、コスト軽減も期待できます。
アジャイル型開発の場合
請負型は、「ウォーターフォール型開発」に適していますが、ラボ型開発は「アジャイル型開発」に向いています。
ウォーターフォール型開発とは、プロジェクトの初期段階で仕様や要件を詳細に決定し、すべて完成してからシステムを公開する開発方法です。
一方、アジャイル型開発は、開発の初めに仕様や要件を大まかに決めるのみで、短期間で設計・リリース・テストを繰り返しながら改善を図る開発方法です。システムを迅速にリリースできる開発方法ですが、小規模な開発を繰り返す必要があります。
定期的に発注する案件の場合
ラボ型開発は、定期的に発注する案件がある場合に適しています。
例えば、開発案件が常に発生しているのに人員が不足しているとしたら、請負型開発では時間や手間がかかってしまうでしょう。依頼先を開発案件ごとに選定してから、依頼内容の説明や見積もりを取らなければなりません。
また、各企業にルールや開発プロセスを合わせる必要があるため、確認やすり合わせの連絡にも時間がかかります。一方、ラボ型開発であれば一連の流れが一度で済むため、発注元の手間や時間を大幅に削減できます。
仕様変更が予想される場合
仕様変更が予想される場合も、ラボ型開発が向いています。理由は、契約期間中であれば、追加のコストが発生せず対応してもらえるためです。請負型よりもコスト軽減が見込めるうえ、同じチームで開発を進めることでノウハウや技術を共有できるため、迅速な理解や柔軟な対応が期待できます。
ラボ型開発におけるチーム編成のポイント
ラボ型開発では、開発チームの編成がプロジェクトの成功を大きく左右します。チーム編成がしっかりと整っていれば、プロジェクトの進行がスムーズになりトラブルが発生した際にも迅速に対応できます。ここでは効果的なチーム編成のポイントを解説します。
スキルセットのバランス
開発チームを編成する際には、エンジニアのスキルセットがバランス良く配置されていることが重要です。例えば、バックエンド・フロントエンド・データベース管理・インフラ・デザインなど、各分野で必要な技術を持つメンバーを揃えることでプロジェクト全体が滞りなく進行します。
さらに、幅広い技術に精通したメンバーが揃うことで開発の初期段階からスムーズな設計と実装が可能になります。また、必要に応じてデータサイエンスやセキュリティの専門家など、特定分野のスキルを持つメンバーを確保することも大切です。
チームリーダーの選定
ラボ型開発では、発注元とのコミュニケーションやプロジェクト管理を行うリーダーの役割が非常に重要です。リーダーは技術的な知識だけでなく、プロジェクトマネジメントスキルやリーダーシップも必要です。リーダーがしっかりとチームを指導しタスクを適切に振り分けることで、チーム全体が円滑に動きます。
さらに、発注元とのコミュニケーションを円滑に行う能力も不可欠です。リーダーがプロジェクトの進行状況を正確に把握、適切なタイミングでフィードバックを提供することが、プロジェクトの成功に直結します。
コミュニケーションの仕組みづくり
リモートチームやオフショアでのラボ型開発では、コミュニケーションの取り方が成功のカギとなります。地理的に離れているメンバー間のコミュニケーションがスムーズにいくためには、チャットツールやプロジェクト管理ツールを効果的に活用することが大切です。
SlackやMicrosoft Teams、Trello、Jiraといったツールを使ってリアルタイムでの情報共有や進捗管理を行うことができます。さらに、定期的なビデオ会議や進捗報告会を設定することで、チーム全体の一体感を保ちつつ細かな進行状況を確認し合うことが可能です。
また、コミュニケーションの透明性を保つために、課題や問題が発生した際には早期に報告し速やかに対策を講じる体制を整えることも重要です。
ラボ型開発におけるコスト管理
コスト管理は、ラボ型開発において非常に重要です。特に、中長期的なプロジェクトでは、予算オーバーが起こりやすいため、事前にしっかりとした計画を立てることが求められます。ここでは、コストを効果的に抑えるための方法を詳しく解説します。
コスト見積もりの基礎
ラボ型開発のコストは、開発メンバーの人数・契約期間・プロジェクトの規模に基づいて決まります。プロジェクトのスコープが広がるほど人員や開発期間が増えるため、コストも増加します。
そのため、事前にプロジェクトの要件をできる限り明確にし、必要な人材や開発時間を正確に見積もることが重要です。また、突発的な仕様変更や修正依頼が発生する可能性も考慮し、一定のバッファを設けた予算計画を立てておくことで、プロジェクト途中で予期しないコストが発生するリスクを軽減できます。
オフショア開発のコストメリット
ラボ型開発では、オフショアを活用することでコストを大幅に削減することができます。特に、インドやベトナム、フィリピンなど、人件費の安い地域での開発はコスト削減に大きなメリットがあります。
しかし、オフショア開発には言語や文化の違いや時差などの課題もあるため、適切なコミュニケーションツールやプロジェクト管理ツールを利用することで、これらの課題を克服することが重要です。
また、オフショアでのラボ型開発では、長期的なプロジェクトにおいて特にコストパフォーマンスが高く発注元にとって非常に効果的な手法となります。
契約期間中のコスト管理
ラボ型開発の契約期間中は発注者がプロジェクトの進捗を管理し、必要に応じて仕様変更や追加機能の要望を出すことが可能です。この柔軟性は大きなメリットですが、無計画な変更や追加機能の要求が重なると、プロジェクト全体のコストが膨らむ可能性があります。
そのため、契約内容をしっかりと把握し変更が必要な場合には予めコストを見積もり、発注元との間で合意を得た上で進めることが重要です。特に、範囲外の作業が発生した場合には追加コストが発生する可能性があるため、契約時に作業範囲を明確にしておくことが推奨されます。
まとめ
社外で編成したチームに、一定期間開発を依頼する開発手法のラボ型開発には、多くのメリットがあります。一例として挙げると、長期間にわたり同じメンバーで開発を進められるため、人員を確保できたりコストを抑えられたりする点です。
一方、発注元のマネジメントの負荷が大きく、一定量の発注がなければ費用対効果が下がりやすいデメリットもあります。定期的に案件が発生する場合や、仕様変更を適宜行う場合にはラボ型開発がおすすめです。開発の内容にあった手法を選択し、プロジェクトを成功に導きましょう。