ログ管理の重要性と導入のポイントとは?必要な知識と注意点を徹底解説
現代のビジネス環境において、ログ管理は組織の安定運用とセキュリティ対策に欠かせない要素のひとつとなっています。ITインフラが日々複雑化しデジタル技術が業務に深く浸透する中で、システムが記録する「ログ」は業務の追跡や分析にとって貴重な情報源です。
ログとはシステムやアプリケーションがユーザーやシステムの操作履歴、エラー情報などを自動的に記録したデータであり、アクセス情報やエラー履歴などさまざまな記録が含まれます。これらのログを適切に管理することで、情報資産の保護や内部統制の強化、さらにはマーケティング活動にも活用できるといった多様なメリットが得られます。
しかし、ログ管理には単にデータを保存するだけではなく、収集、分析、監視、レポーティングといったプロセスが含まれ、効果的な運用には多くのリソースが必要です。また、クライアント側やサーバー側でのログ管理方法も異なり、適切な管理が行われなければ情報漏洩や不正アクセスのリスクが高まる可能性もあります。また、コストや工数が発生する点や、ログ管理のみでは完全なセキュリティ対策とは言えない点にも注意が必要です。
本記事では、ログ管理の基本的な概要や管理対象となるログの種類、またその必要性やメリットについて詳しく解説します。さらに、効果的なログ管理の手法や注意点についても触れ、企業がどのようにログ管理を活用できるかを考察していきます。
ログ管理とは
ログ管理とは、企業が業務を継続するために必要なITシステムのログを収集し、継続的にシステムを運用できるように管理することです。ここからは、ログ管理の対象となるログの種類をご紹介します。
管理対象となるログの種類
管理対象となるログは以下のとおりです。
1.認証ログ
認証ログとは、インターネット上のサイトへのログイン、システムやパソコンへのログインなどの履歴のことです。このログを確認すると、承認された記録やエラーが発生した記録などが確認できます。
2.操作ログ
操作ログとは、システムやパソコンを操作した履歴のことです。
このログでは、パソコンの電源やファイルの新規作成など、いつ・誰が・どのような操作をしたのかが確認できます。
3.イベントログ
イベントログとは、システムやパソコンで発生した不具合やエラーなどを記録した履歴のことです。このログを収集すると、過去の不具合やエラーが発生した履歴を確認できます。
4.通信ログ
通信ログとは、インターネット上で行われた通信やサーバーへのアクセスを記録した履歴のことです。このログを収集すると通信に関するエラーログの確認が可能なため、基幹業務がインターネット上で行われている企業にとって重要なログといえます。
5.通話ログ
通話ログとは、発信や着信、不在着信などを記録した履歴のことです。
6.印刷ログ
印刷ログとは、ドキュメントを印刷した際の情報を記録した履歴のことです。印刷したドキュメント名や部数を始め、データの送信を行った端末などさまざまな情報が記録されています。
万が一、情報が漏えいした際に印刷ログを確認すると、該当のドキュメントの詳細な情報を確認できます。
7.設定変更ログ
設定変更ログは、システムやパソコンの設定が変更された際に記録される履歴のことです。何かしら設定を変更すると不具合が発生することがあり、設定変更ログを確認することで不具合が起きる前の状態に復元できます。
8.エラーログ
エラーログは、エラーや不具合が発生した日時や内容を記録した履歴のことです。このログを収集すると、エラーや不具合が発生した原因を追究できます。これにより、同様のエラーや不具合が発生しないように対策を打つことが可能になるでしょう。
9.セキュリティ機器のログ
セキュリティ機器のログとは、職場の入退室記録やドアの開閉記録、監視カメラの映像などが該当します。これらのログは、監視カメラや電子ロック扉などから収集可能であり、解析することで従業員の誰が何時に出入りしているのかが分かります。このログを確認すれば社内で盗難があった、外部から人が侵入してきたなど、トラブルの際に役立つでしょう。
ログ管理の必要性・メリット
社内の情報資産を守るため、個人情報保護のためにログ管理が重要といわれます。では、具体的にどのような理由で必要とされているのでしょうか。
ここからは、ログ管理の必要性やメリットについて詳しく解説します。
情報資産・個人情報の保護
ログ管理にリソースを割くことで自社のセキュリティが向上し、情報資産・個人情報の保護に効果を発揮します。
情報資産や個人情報が流出する原因として多く挙げられるのは、従業員の人為的なミスです。情報資産・個人情報の流出が起きてしまうと自社の信用失墜にもつながります。このような事態を避けるためにはログ管理を徹底することが大切です。
また、従業員に対してログ管理のことを周知することで、不正をしたらログからすぐに発覚してしまうと意識させることができ不正行為の防止になります。さらに万が一、情報の漏えいが発生しても管理ログから原因の特定が可能なため、再発防止策を速やかに立てられるでしょう。
内部統制
内部統制とは、社内の業務水準を一定に保ち、効率的かつ健全な運営を行うために必要な仕組みです。ログ管理を行うことでITシステムに関する社内状況を把握できるようになり、適切な方法で業務を行っているか確認できます。
不正や機密情報の持ち出しなどは管理ログによって発覚するだけでなく、そのことを従業員に周知しておけば従業員の意識も向上するでしょう。
マーケティング活動への利用
ログ管理は自社内のシステムやパソコンの他に自社HPでも活用可能です。例えば、自社サイトに訪問した日時や時間、ページを離れるまでにかかった時間など訪問者の詳細な情報が分かります。
これらの情報は自社HP内に保存されるため、ログ管理を行うことでマーケティング活動へつなげることが可能です。
ログ管理によって実現できること
ログ管理の大きな目的は、利用状況を把握し、システムに障害が発生したときにその原因を特定することです。では、具体的にどのような方法で原因を特定していくのでしょうか。
ここからは、ログ管理を行うことで実現できることを詳しく解説します。
ログの収集
自社で運用しているシステムやパソコンを、機器ごとにログをひとつずつ取得する方法では時間がかかります。
しかし、ログ管理を行い適切に収集することで、出力されたログを1カ所にまとめることが可能です。これにより短い時間で調査ができ、効率的かつ正確な情報を把握できます。
ログの分析
収集したログを分析すると、不審なアクセスや不適切な操作などの検知が可能です。
また、近年ではAIによる自動分析を行うサービスが登場しており、人間がログの分析を行うよりも高い精度でシステムの状況を把握できます。より詳細なシステムの状況を把握したい場合は、AIのログ分析サービスを利用するのも効果的です。
ログの保存
ログの分析を行うにあたって必要になるのは一定期間ログを保存することです。しかし、ログを大量に保存する場合はストレージを圧迫することにつながるため、保存場所とログの圧縮方法を前もって決めておきましょう。
適切にログを保存することで、過去のシステムの状況を調査する際に役立ちます。また、一定期間のログをさかのぼれるため、監査対応がスムーズに進むでしょう。
ログの監視
社内システムを運用している限り、ログは常に出力されます。出力されたログを監視できれば、何らかの障害が発生した際に迅速な対応が可能です。
しかし、ログの監視ができない状況にあると、システム障害の発見が遅れ、障害の規模が大規模化することもあるでしょう。このような事態を避けるためにログの監視は必要であり、監視することで業務の効率化や安定したシステム運用が可能になります。
レポーティング
出力されたログのみを読み取ってシステム状況を把握するのは経験やスキルが必要です。そこで、出力されたログをもとに表やグラフを作成し、レポートとして出力する必要があります。これにより管理者が情報を整理しやすくなり、全体像の把握が容易になります。
ログ管理の方法
ログ管理を行う方法として人力で行う方法もありますが、膨大な工数がかかります。そのため、人件費をはじめとしたコストもかかってしまうのです。そのため、ログ管理ツールを使うのが一般的です。
ログ管理ツールにはさまざまな種類がありますが、ここではクライアントログ管理ツールとサーバーログ管理ツールをご紹介します。
クライアントログ管理
クライアントログ管理ツールでは、社内システムを利用している人のデバイス(PC、スマホなど)のログを管理します。クライアントログ管理ツールには、IT資産管理ツールやログの取得のみを行うログ管理ツールなど、さまざまなツールがあります。導入するツールによってログを収集する範囲が異なるため、ログをどこまで収集したいのかを事前に把握しておくとよいでしょう。
例えば、システムを利用している各端末でどのソフトウェアを使用し、どんな作業を行ったのかなど詳細なログを収集できるログ管理ツールもあります。このような詳細なログを収集できれば内部不正や不正アクセスなどの防止・調査が可能になるため、必要に応じて導入を検討しましょう。
サーバーログ管理
サーバーログ管理ツールでは、ネットワーク機器やサーバーから出力されたログを収集・管理できます。これにより、多くの機器が接続されたシステムであってもログ管理を容易に行えるでしょう。サーバー障害が発生したとしてもログ管理ツールが監視しているため、被害の拡大を防ぎ、原因の調査と対応を迅速に進められます。
このようにログを管理することは証拠保存の観点からも重要であり、適切なツールでのログ管理が求められます。ログ管理ツールの導入によって期待できる効果を参考にしながら、どのログ管理ツールが自社に適しているのかを検討しましょう。
ログ管理の注意点・デメリット
前述したように、ログ管理を適切に行うことで情報漏えい対策や内部統制などにも役立ちます。しかし、ログ管理には、コストや工数がかかります。
ここからはログ管理の注意点・デメリットを確認していきましょう。
コストや工数が発生する
ログ管理を行うためには一定期間のログを収集し、保存しておかなければなりません。また、保存には適切なストレージやログの圧縮方法などのネットワークインフラの整備が必要です。さらにログの解析を行うツール・システムの導入も検討しなければならず、運用には経験や専門的な知識が求められます。それに伴い、コストや工数が発生することは避けられません。
導入するシステムの規模や複雑さによっては、人員やリソースの追加が必要なこともあるでしょう。その結果、さらなるコストや工数が発生することも十分に考えられます。事前に導入計画や予算を明確にし、必要なコストや工数を考慮すべきでしょう。
ログ管理だけでは完全なセキュリティ対策ではない
ログ管理によってシステムの状況を把握することはセキュリティ対策にも有効です。しかし、ログ管理だけでは、万全なセキュリティ対策とはいえません。
そもそも、ログは過去に発生した出来事の記録であり、サイバー攻撃の対処にはあまり向いていないのです。サイバー攻撃が発生してからログの分析・対応を実施するため、リアルタイムでの迅速な対処が困難な場合もあります。
また、ログに記録されないタイプのサイバー攻撃も存在するため、このような攻撃を検知するためにログ管理以外のセキュリティ対策が必要です。さらに、ログの改ざんや無効化が可能な手法で攻撃してくることもあるため、即時検知機能や防御機能のあるセキュリティ対策が求められます。安心・安全なセキュリティ対策を構築するためには、ログ管理だけでなくそれ以外のセキュリティ対策ツールを組み合わせることが重要といえます。
統計データや資料を作成しづらい
ログは分散して存在していることが多く、確認手段も多岐にわたります。システムごとにログの種類も異なるため、これらを手作業で収集するのは大きな手間がかかり現実的ではありません。
また、なんとかログを収集しても、それらを統計や資料に落とし込む作業も必要となります。異なる内容のログをまとめる作業には膨大な労力・コスト・時間がかかってしまうのです。
ログ管理の導入時に考慮すべきポイント
ログ管理を導入する際には適切なツールの選定や管理体制の確立など、事前に検討しておくべき事項が多数あります。ログ管理はセキュリティ強化だけでなく、業務の効率化やトラブル時の迅速な対応にも寄与するため、導入の際には計画的に進めることが重要です。ここでは、ログ管理を導入する際に確認しておくべき主なポイントについて詳しく解説します。
ログ管理ツールの選定基準
ログ管理ツールは、ログの収集から保存、分析、監視まで一連の管理が可能ですが、企業や運用目的によって最適なツールが異なります。
例えば、収集したログの一元管理が必要か、リアルタイムでの監視が必要か、あるいは拡張性やコストをどの程度重視するかなど、検討すべき基準がいくつかあります。小規模な業務にはシンプルなツールが適している一方、大規模なシステムでは多機能で統合的なログ管理ツールが必要となるため、業務規模や目的に応じたツール選定がログ管理の成否を左右するでしょう。
導入体制の確立と担当者の明確化
ログ管理の運用体制をしっかりと確立し、誰がどの部分を担当するのか明確にしておくことが大切です。担当者の役割が曖昧なままだと、システム障害やインシデント発生時に対応が遅れ、セキュリティや監査に関するリスクが高まる可能性があります。
また、業務が変化した際には定期的に管理体制を見直すことも推奨されます。定期的な体制の確認と適切な担当者配置によって、ログ管理はより効果的に機能するでしょう。
収集対象となるログの範囲決定
システムやデバイスごとに収集されるログは多岐にわたりますが、すべてのログを管理するのはリソースの無駄遣いになりかねません。
そのため、重要なログに集中し、必要なデータだけを収集する範囲の決定が重要です。具体的には、認証ログ、操作ログ、通信ログ、エラーログなど、業務上必要な情報を優先して管理し、不要なデータは省くことで、効率的なログ管理が実現できます。
以下に各項目の文章量を増やした内容を記載します。
ログ管理のセキュリティ対策との連携
ログ管理はセキュリティ対策の一環として有効ですが、それ単体では万全のセキュリティを確保するのは難しいため、その他のセキュリティ対策との連携が求められます。ここでは、ログ管理をセキュリティ対策とどのように組み合わせるべきかについて説明し、強固なセキュリティ体制を構築するための連携方法を紹介します。
SIEM(セキュリティ情報およびイベント管理)との連携
SIEM(Security Information and Event Management)は、複数のセキュリティ情報やイベントを一元管理し異常検知を迅速に行えるシステムで、ログ管理と連携することでリアルタイムの脅威検知や迅速な対応が可能です。
SIEMは、ファイアウォールやアンチウイルス、IDS/IPSなど他のセキュリティ対策と連携し、システム全体を一括で監視することができるため、ログ管理の精度や効率を大幅に向上させることができるでしょう。
アクセス制御とログ管理の役割分担
アクセス制御システムとログ管理を組み合わせることで、不正アクセスの早期検知が可能になります。
アクセス制御によって未然に不正を防ぎつつ、ログ管理で誰が何を行ったかを追跡することで、万が一のインシデント発生時にも原因追跡が容易になります。これにより、より堅牢なセキュリティ体制が整い、組織の機密情報が保護されやすくなります。
データ暗号化とログ管理の併用
データの暗号化とログ管理の併用は、情報漏えいリスクの低減に非常に役立ちます。特に機密性の高いデータを扱う場合は暗号化によって外部からのアクセスを防止し、ログ管理によってアクセス履歴を追跡することで情報保護を強化することが可能です。
暗号化とログ管理の併用により機密データの安全性を高めつつ、インシデント発生時にも迅速な対応が可能となります。
ログ管理とコンプライアンス対応
企業が遵守すべき法規や規制は、データ保護や情報管理に関するものが増えており、ログ管理は、こうした法規制への対応やコンプライアンスを実現するうえで重要な要素となります。コンプライアンスの観点から見たログ管理の役割について解説します。
GDPRや個人情報保護法への対応
欧州のGDPRや各国の個人情報保護法に対応するためには、アクセス履歴の管理やデータの保護が重要です。
ログ管理を導入することで、誰がいつどの情報にアクセスしたのかを詳細に追跡できるため、万が一の漏えいや不正アクセス発生時にも迅速な対応が可能になります。規制が厳しい業界では特に重要視されるため、規制対応のスムーズな進行に役立つでしょう。
監査対応と証拠保全
企業が内部監査や外部監査を受ける際、証拠として提供できるログ管理は重要な役割を果たします。
適切に収集・保存されたログは、監査の迅速な進行や企業の透明性向上にも寄与します。適切なログ管理体制が整っていれば、トラブル発生時にも正確な証拠を提示することができ、企業の信頼性を保つうえでも有益です。
データ保持期間の管理
コンプライアンス対応では、データの保持期間を適切に管理することも求められます。ログデータも例外ではなく規定に従い必要な期間だけ保持し、その後は削除することが必要です。
特に法令で保持期間が規定されているデータについては、厳格な管理が求められ、保持期間の管理により企業のコンプライアンス意識が高まります。
まとめ
ログには、認証ログや操作ログなどさまざまな種類があり、これらのログを収集、分析することで情報資産・個人情報の保護などが可能になります。
適切なログ管理は、さまざまなメリットをもたらしますが、業務にとって大きな負担になることも確かです。また、コストや工数の発生や不完全なセキュリティ対策などのデメリットも存在します。メリットだけではなく、デメリットも考慮したうえでログ管理の導入を検討しましょう。