レート制限とは?APIを利用するなら知っておきたい基本知識を徹底解説

近年APIやWebサービスの利用が急増する中で、「レート制限」の重要性が高まっています。レート制限とは特定の時間内にユーザーが実行できるリクエスト数を制限する仕組みで、システムの安定性を保ちつつ不正利用や過剰なアクセスを防ぐために欠かせない技術です。
例えば、あるWebサービスが無制限にリクエストを受け付けると、一部のユーザーや悪意のある攻撃者がリソースを独占し他のユーザーが利用できなくなる可能性があります。また、大量のアクセスが発生するとサーバーがダウンしサービス全体の品質低下につながることも考えられます。こうした事態を防ぐために、多くの企業がレート制限を導入し適切なアクセス管理を行っています。
レート制限は、セキュリティ対策・公平性の確保・サービス品質の維持・コスト管理といった目的で活用され、実装方法やアルゴリズムも多岐にわたります。本記事ではレート制限の基本から、実装の種類・保存方法・代表的なアルゴリズム・具体的な導入方法まで詳しく解説します。

レート制限とは
レート制限とは一定の時間内にユーザーが実行できるリクエスト数を制限する仕組みです。たとえば、ログイン試行の回数やAPIの呼び出し回数に上限を設けることで、システムの安定性を維持し不正利用を防ぎます。
この仕組みは、API・Webサーバー・クラウドサービスなど、さまざまな環境で活用されています。
レート制限の目的・必要性
レート制限はただ単にリクエストを抑えるだけではなく、システムの安全性や品質を守るために重要な役割を果たします。主な目的は以下の4つです。
- セキュリティ対策
悪意のある利用者のアクセスを制限し、DDoS(分散型サービス拒否)攻撃やブルートフォース攻撃を防ぎます。 - 公平性の確保
特定のユーザーがAPIリソースを独占することを防ぎ、すべてのユーザーが公平にアクセスできる環境を維持します。 - サービス品質の維持
トラフィックの急増によるサーバーダウンや速度低下を防ぎ、安定したサービスを提供します。 - コスト管理
想定外のリソース使用を抑え、無駄な運用コストを削減します。
レート制限はシステムを守る「盾」のような役割を果たす重要な仕組みです。適切に導入することで快適で安全なサービス運用が可能になります。
レート制限の対象
レート制限は大きく5つのカテゴリに分類できます。それぞれの目的や識別方法を詳しく見ていきましょう。
ユーザーベース
特定のユーザーが一定時間内に実行できるリクエスト数を制限する方式です。たとえば、同じAPIキーを使用するユーザーが1分間に100回までしかリクエストを送れないようにするケースが挙げられます。これにより、特定ユーザーの過剰な利用を防ぎ公平性を保てます。識別方法は以下の通り。
- ユーザーID
- ユーザーロール
- IPアドレス
- メールアドレス
ロケーションベース
特定の地域に対して一定時間内のアクセス数を制限する方式です。たとえば、ある国や都市からのアクセスが集中している場合、一時的にリクエスト数を制限することでトラフィックの分散を図ります。また、特定地域からの不正アクセスやDDoS攻撃を防ぐ目的でも使われます。識別方法は以下の通り。
- 国コード・地域コード
- IPアドレスの範囲
サーバーベース
特定のサーバーに対して処理できるリクエスト数の上限を設定する方式です。たとえば、サーバーが処理能力の限界に達した場合、それ以降のリクエストは別のサーバーへ振り分けられるように設定できます。これにより、負荷の分散やサービスの安定性を確保できます。識別方法は以下の通り。
- サーバーID
- ホスト名
- IPアドレス
操作ベース
特定の操作に対してリクエストの頻度を制限する方式です。不正利用を防ぐために重要な対策となります。たとえば、クレジットカード情報の変更やパスワードリセットなど、短時間に何度も実行されると危険な操作に対して制限をかけることでセキュリティを強化できます。識別方法は以下の通り。
- リクエストのメソッド(POST, GETなど)
- APIエンドポイント
時間帯ベース
特定の時間帯にアクセス可能な回数を制限する方式です。トラフィックが集中しやすいピークタイムに制限をかけることでサーバーの負荷を分散できます。たとえば、オンライン予約システムなどではアクセスが急増する時間帯に制限を設け、システムの安定稼働を確保することが一般的です。識別方法は以下の通り。
- 時間帯
- 曜日・祝日
レート制限は適切に活用することでシステムの安定性やセキュリティを高める強力なツールです。それぞれの目的に応じた適用方法を選びましょう。
レート制限の保存場所
レート制限の情報はシステムの規模や要件に応じて異なる方法で保存されます。主な保存先として「ファイル」「リレーショナルデータベース」「キャッシュシステム」の3つがあり、それぞれ特徴があります。
ファイル
小規模なプロジェクトではレート制限の情報をファイルに保存することがあります。シンプルな設計で導入しやすい一方、スケーラビリティには課題があります。
特徴:
- 導入が簡単で、小規模な環境に適している
- 読み書きがファイルI/Oに依存するため、大量のリクエスト処理には向かない
- LaravelなどのWebフレームワークでは、デフォルトでファイルに保存する仕組みを持っている
リレーショナルデータベース
大量のデータを効率的に管理する際に使用される保存方法です。トランザクション処理を活かせる一方、キャッシュに比べると速度面での制約があります。
特徴:
- 大規模なシステムでも安定して運用可能
- データの一貫性を保ちやすい
- キャッシュよりも書き込み・読み込みの遅延が発生しやすい
キャッシュシステム
高速なデータ読み書きを実現するため、Redisやmemcachedのようなキャッシュシステムがよく使われます。ただし、サーバーを再起動するとデータが失われる可能性があります。
特徴:
- 低レイテンシでのアクセスが可能
- サーバーの再起動時にデータが消えるリスクがある
- 「fastapi-limiter」ではRedisを利用、「SlowApi」ではRedisやmemcachedを採用
レート制限のアルゴリズム
レート制限を実装する際には適切なアルゴリズムを選ぶことが重要です。代表的なアルゴリズムには以下のようなものがあります。
トークンバケット
トークンバケットは一定間隔でトークンを補充し、それを消費することでリクエストの処理を制御する方式です。たとえば、Twitchのレート制限で採用されています。
- バケットには上限があり、それを超えたトークンは追加されない
- 一定時間ごとに新しいトークンが補充される
- トークンが残っている限り、リクエストを処理可能
- トークンが枯渇すると、リクエストが拒否されるか遅延する
リーキーバケット
一定速度でリクエストを処理することで、システム負荷の急増を抑える方式です。たとえば、Shopifyのレート制限に使用されています。
- バケットには上限があり、トークンが追加される
- 一定間隔でトークンが削除され、処理速度を一定に保つ
- バケットが満杯になると、新しいリクエストは遅延または拒否される
固定ウィンドウカウンタ
一定時間ごとのリクエスト数をカウントし、制限を超えた場合にアクセスを制御する方式です。
- 時間ごとのウィンドウを設定(例:1分間に100回まで)
- ウィンドウがリセットされるまでカウンタを増やして管理
- 設定値を超えたリクエストは拒否または遅延
スライディングウィンドウ
固定ウィンドウカウンタの欠点(ウィンドウ切り替え時のリクエスト急増)を解消するための方式です。
- 受信したデータをバッファ(ウィンドウ)に保持
- ウィンドウ内でリクエスト数を監視し、スライドさせながら管理
- ウィンドウのサイズが変動し、より柔軟な制限が可能
アプローチは以下の通り。
- スライディングウィンドウログ: 過去のリクエストログを保持して管理
- スライディングウィンドウカウンタ: 一定時間内のカウントを動的にスライド
レート制限のアルゴリズムは、それぞれ異なる特性を持っています。用途に応じて最適なものを選ぶことがシステムの安定運用につながります。
レート制限の実施方法
レート制限には大きく分けて3つの実施方法があります。それぞれのメリットと課題を理解し、システムに適した方法を選びましょう。
クライアントサイドで制限する場合
レート制限をクライアントアプリケーション内で実装しサーバーに送るリクエスト数を制御する方法です。たとえば、Webブラウザやモバイルアプリでリクエストの間隔を調整することでサーバーへの負荷を抑えます。メリットは以下の通り。
- 即時フィードバック
クライアントが即座にリクエスト制限のフィードバックを受け取れるため、ユーザーエクスペリエンスを向上できる。 - サーバー負荷の軽減
クライアント側で過剰なリクエストを抑えることで、サーバーの負担を減らせる。
ただし以下のような課題もあります。
- セキュリティリスク
クライアント側の制御はユーザーに依存するため、悪意のある利用者によってバイパスされる可能性がある。 - クライアントの多様性
すべてのクライアント(サードパーティのアプリなど)で同じ制限を適用するのが難しい。
サーバーサイドで制限する場合
サーバー内部でリクエストの制限を管理し、システム全体で統一されたポリシーを適用する方法です。たとえば、APIゲートウェイでリクエストの頻度を監視し、制限を超えた場合にエラーレスポンスを返します。メリットは以下の通り。
- 中央集中管理
すべてのリクエストをサーバー側で一元管理でき、一貫性のあるレート制限が可能。 - 高いセキュリティ
クライアント側での操作ができないため、レート制限を回避されにくい。
ただし以下のような課題もあります。
- パフォーマンスの負荷
レート制限のロジックがサーバーに負荷をかけるため、大量のリクエストを処理する場合はオーバーヘッドが発生する可能性がある。 - スケーリングの課題
分散システムなどでは、異なるサーバー間でレート制限の状態を同期する必要があり、実装が複雑になることがある。
ハイブリッドアプローチの場合
クライアントサイドとサーバーサイドの両方を組み合わせてレート制限を行う方法です。たとえば、クライアントがリクエスト頻度を調整しつつ、サーバー側でも集中管理を行うことで柔軟な制御が可能になります。メリットは以下の通り。
- 柔軟性
クライアントとサーバーの両方で制御できるため、負荷分散が可能。 - 高い耐障害性
どちらかの制限が機能しなくなっても、もう一方がカバーできるため、システムの耐障害性が向上する。
ただし以下のような課題もあります。
- 実装の複雑さ
クライアントとサーバー間での調整や統合が必要になり、開発の手間が増える。 - オーバーヘッドの発生
適切に負荷分散しないと、クライアントとサーバーの両方に無駄な負担がかかる可能性がある。
どの方法を選ぶべきか?
レート制限の方法はシステムの規模や要件に応じて適切なものを選択することが重要です。
- 小規模なアプリ
クライアントサイドのレート制限 - 高いセキュリティが必要なシステム
サーバーサイドのレート制限 - 大規模な分散システム
ハイブリッドアプローチ
それぞれの特性を理解し最適な方法を導入しましょう。
レート制限の設定とベストプラクティス
レート制限を適切に設計するには対象とするリソース、適用ルール、通知方法などを事前に決めておくことが重要です。誤った制限設定はユーザーエクスペリエンスの低下や業務の妨げになる可能性があるため、慎重に設計しましょう。
レート制限を設定する際の考慮ポイント
レート制限を導入する際に考慮すべきポイントは多岐にわたります。適切な設定を行うために以下の要素を考慮しましょう。
リソースの種類を決める
レート制限を適用する対象を明確にする必要があります。例えば、APIエンドポイントごとに異なる制限を設ける、ユーザーごとに異なる閾値を設定するなど、利用状況に応じた適用ルールを考えることが重要です。
制限ルールを柔軟に設定する
固定の閾値だけではなくユーザーの利用状況に応じた動的な制限も有効です。たとえば、無料ユーザーと有料ユーザーで異なるリクエスト上限を設定するなど、制限の柔軟性を持たせるとよいでしょう。
適切なエラーハンドリングを行う
レート制限に達した際、どのようにユーザーへ通知するかを決めることも重要です。例えば、HTTP 429(Too Many Requests)を返し、次にリクエスト可能な時間を明示するなどの方法が考えられます。
レート制限の通知と回避策
レート制限に達したユーザーに適切な対応を行うことで不満を軽減し、スムーズなサービス利用を促進できます。
- エラーメッセージの設計
レート制限の影響を最小限に抑えるために、明確なエラーメッセージを提供しましょう。「現在のリクエスト回数が上限に達しました。5分後に再試行してください」など、制限時間や次の試行可能時間を具体的に伝えると、ユーザーの混乱を防げます。 - リトライ後の処理の考慮
ユーザーが一定時間待機した後に再リクエストできるように、適切なリトライ戦略を設計することが重要です。指数バックオフ(exponential backoff)を用いて、最初のリトライは短時間、以降のリトライ間隔を徐々に増やす設計をすると、サーバー負荷を抑えながら適切に対応できます。
レート制限の具体的な実装例
レート制限はさまざまな方法で実装できますが、どの技術を採用するかはシステムの特性や要件に応じて選択する必要があります。
プログラミング言語別のレート制限実装
レート制限の実装は利用するプログラミング言語によって異なります。代表的な技術とその方法を紹介します。
Python(Flask / FastAPI)
Pythonでは、flask-limiter
や fastapi-limiter
などのライブラリを活用することで、簡単にレート制限を導入できます。例えば、以下のようにAPIエンドポイントごとに制限を設定できます。
from flask import Flask
from flask_limiter import Limiter
from flask_limiter.util import get_remote_address
app = Flask(__name__)
limiter = Limiter(get_remote_address, app=app, default_limits=["100 per hour"])
@app.route("/api/resource")
@limiter.limit("10 per minute")
def limited_resource():
return "このAPIは1分間に10回までアクセス可能です"
Node.js(Express)
Node.jsでは、express-rate-limit
を使うことで、簡単にレート制限を適用できます。
const rateLimit = require("express-rate-limit");
const limiter = rateLimit({
windowMs: 15 * 60 * 1000, // 15分
max: 100, // 15分間に100リクエストまで
message: "リクエスト数の上限に達しました。しばらくしてから再試行してください。"
});
app.use("/api/", limiter);
クラウドサービスを活用したレート制限
レート制限は、クラウドサービスを利用することで、より簡単に導入・管理できます。
- AWS API Gateway のレート制限
AWSでは、API Gatewayを利用することで、サーバーレスなレート制限が可能です。リクエストのスロットリングを設定することで、ユーザー単位やIP単位でのアクセス制限を柔軟に行えます。 - Cloudflare のレート制限機能
CloudflareのWAF(Web Application Firewall)を活用すると、特定のエンドポイントに対して秒単位・分単位のアクセス制限を簡単に設定できます。
まとめ
レート制限は、システムの安定性を確保し、悪意のある利用や過剰なトラフィックを防ぐために重要な技術です。特に、APIやクラウドサービスでは不可欠な仕組みであり、適切な制限を設けることで、より快適なユーザー体験を提供できます。
本記事では、レート制限の目的、対象範囲、保存方法、主要なアルゴリズム、実装方法について詳しく解説しました。導入を検討する際は、システムの特性や規模に合わせて適切な方法を選択することが重要です。
- 小規模なシステムでは、クライアントサイドでの制限が手軽
- セキュリティを重視する場合は、サーバーサイドでの管理が有効
- 大規模なシステムや分散環境では、ハイブリッドアプローチが最適
適切なレート制限の設計を行い、安定したシステム運用を実現しましょう。
