SaaS監視とは?必要性や手法、ツール、課題解決まで徹底解説
SaaS(Software as a Service)の普及により企業は場所や時間を問わずシステムやアプリケーションを利用できるようになりました。しかし、SaaS環境ではその柔軟性の反面、運用管理や監視が複雑化し従来のオンプレミス環境とは異なる課題が生じています。特にマルチテナント環境では複数のユーザーが同じインフラを共有するため、あるユーザーの過剰なリソース使用が他のユーザーのパフォーマンスに影響を及ぼすことがあります。このような環境でサービスの可用性やパフォーマンスを維持するためには効果的なSaaS監視が不可欠です。
SaaS監視ではアプリケーションの稼働状況やAPI応答時間、リソース使用量、ユーザーエクスペリエンスなどを継続的に監視し、問題を早期に発見・対処する体制を構築します。クラウドベンダーが提供するAWS CloudWatchやAzure Monitorを利用すれば基本的なリソース監視が可能です。一方、より高度な監視を実現するにはSite24x7やNew RelicといったSaaS型監視ツールの導入が効果的です。また、外形監視を行えば実際のユーザー体験をシミュレートし、ユーザー目線でのサービス品質を把握できます。
この記事ではSaaS監視の基本から具体的な手法、課題とその解決策、さらには導入成功事例までを詳しく解説します。企業の競争力を維持しビジネスの信頼性を高めるためにも、適切なSaaS監視体制の構築が欠かせません。この記事を通じて自社に最適な監視方法とツールを見つけ、安定したシステム運用を実現しましょう。
SaaS監視とは?その必要性と基本
SaaS監視はクラウド上で提供されるソフトウェアの状態や性能を継続的に監視し、問題発生を未然に防ぐ取り組みです。オンプレミスと異なりSaaSは複数の外部リソースに依存するため、サービス停止や遅延のリスクが高まります。企業がSaaSを活用する場合、信頼性や安定性を保つための監視が不可欠です。監視によってシステムの稼働状況やユーザー体験を可視化し早期の障害検知と復旧を可能にします。
SaaS監視の定義と重要性
SaaS監視はクラウド上で提供されるサービスの状態や性能を継続的に監視し、システムの安定稼働を保証するプロセスです。可用性、パフォーマンス、セキュリティを維持することは、ビジネス継続に欠かせない要素であり、企業の競争力を支える重要な役割を担っています。適切な監視体制を構築すれば、システムのダウンタイムを最小限に抑えユーザーエクスペリエンスの向上につながります。また、異常を早期に検知して迅速に対処することでビジネスへの影響を最小限に抑えることが可能です。SaaS監視が不十分だと、以下のリスクが考えられます。
- サービス停止による機会損失
- 顧客満足度の低下
- ビジネスの信頼性の低下
SaaS監視は単なるシステムの状態把握ではなく、ビジネス成長の土台を支える重要な戦略ともいえるでしょう。
オンプレミス監視との違い
オンプレミス環境では物理的なサーバーやネットワーク機器の監視が中心でしたが、SaaS環境ではアプリケーションやサービスの稼働状況を監視することが重要になります。オンプレミスではハードウェアの状態や物理リソースの監視が必須でしたが、SaaSではクラウドプロバイダーがインフラを管理しているため、主に以下の要素が監視対象となります。
- APIの応答時間
- アプリケーションのパフォーマンス
- ユーザーエクスペリエンス
また、SaaS環境ではリソースの増減が頻繁に発生するため、動的かつ柔軟な監視が求められます。クラウド特有の特性を理解し適切な監視戦略を策定することで、安定したサービス運用が実現できるのです。
監視対象となるSaaSの種類
SaaS監視を効果的に行うには、自社が利用しているサービスの種類とその監視ポイントを正しく理解することが大切です。SaaSの監視対象には以下のように分類できます。
- IaaS(Infrastructure as a Service)
仮想マシンやストレージなどのインフラを提供。CPU使用率やネットワークトラフィックが監視ポイント。 - PaaS(Platform as a Service)
アプリケーション開発基盤を提供。応答時間やエラー率、プラットフォームの安定性を監視。 - SaaS(Software as a Service)
アプリケーションを提供。可用性、API応答時間、ユーザーエクスペリエンスが重要。
例えば、IaaSではインフラのリソース管理が中心ですが、SaaSではエンドユーザーの利用体験やアプリケーションのパフォーマンスに焦点を当てる必要があります。それぞれの特性に合わせた監視を行うことで、システム全体の安定稼働を支えることが可能です。
SaaS監視の具体的な手法とツール
SaaS監視にはクラウドベンダーが提供する標準監視ツールや、SaaS型監視ツールの導入が効果的です。また、外形監視を通じてユーザー目線でサービスの稼働状況や遅延を確認し、問題を迅速に把握します。これにより、企業はサービスレベルの維持や運用効率の向上が可能です。自社に合った手法とツールを組み合わせることで、包括的なSaaS監視が実現します。
クラウドベンダーの監視サービス活用
AWS CloudWatchやAzure Monitorなど、クラウドベンダーが提供する監視サービスは、基本的な監視ニーズに対応しています。これらのサービスを利用することで、導入コストを抑えながら効率的な監視体制を構築可能です。CPU使用率やメモリ使用量、ネットワークトラフィックなどの基本メトリクスを収集し、ダッシュボードで視覚的に確認できます。さらに、アラート機能を設定すれば異常発生時に即座に通知を受け取れます。クラウドベンダーの監視サービスの特徴。
- クラウド環境に最適化されており、導入が容易
- 基本的なメトリクスをカバー
- コストを抑えた監視体制の構築が可能
ただし、アプリケーションのパフォーマンス監視やリアルユーザー監視(RUM)といった高度な監視には対応しきれない場合もあります。そのため、SaaS型監視ツールを組み合わせることで、より包括的な監視体制を実現できます。
SaaS型監視ツールの導入
Site24x7やNew RelicのようなSaaS型監視ツールは、クラウドベンダーの監視サービスでは対応しきれない高度な監視機能を提供します。これらのツールは、アプリケーションパフォーマンス監視(APM)、リアルユーザー監視(RUM)、ログ監視など、多岐にわたるニーズに応えます。
- APM:アプリケーションのボトルネックを特定し、性能向上に役立つ
- RUM:実際のユーザー操作を追跡し、体験の改善に貢献
- ログ監視:ログデータを収集・分析し、問題の原因を特定
これらのツールはダッシュボードやレポート機能を備えており、監視データを直感的に可視化することができます。また、アラート通知機能によって、異常発生時に迅速に対応できるのも強みです。導入コストはかかりますが、精度の高い監視が可能なため、より高度な監視体制を求める企業には欠かせません。以下におすすめツールを紹介しますので参考にしてください。
Mackerel
Mackerelは、チームでの運用・監視に特化したSaaS型サーバー監視サービスです。直感的なUIで簡単にサーバー管理が行え、2週間の無料トライアル期間があります。SlackやLINEなど豊富な通知方法に対応し、アラート通知を詳細に設定できます。
公式サイト|https://mackerel.io
Site24x7
Site24x7は、手軽に始められるSaaS型の統合監視ツールです。5分でスタート可能な利便性があり、サーバー監視だけでなく、Webサイト監視、クラウド監視なども行えます。世界累計13,000の導入実績があり、Webサイト監視とサーバーの死活監視のみの無料プランも提供しています。
公式サイト|https://www.site24x7.jp
LogicMonitor
LogicMonitorは、柔軟なSaaS監視ソリューションです。3,000以上のプリセットテンプレートで初期設定が簡単に行え、オンプレミスとマルチクラウドのハイブリッド環境を一元監視できます。導入後わずか数分で監視が開始可能で、2,000社以上の導入実績があります。
公式サイト|https://logicmonitor.jp
外形監視の実施
外形監視はSeleniumやPuppeteer、Playwrightといったツールを用いて、Webインターフェースをシミュレートし、ユーザー視点でサービスを監視する手法です。これにより、アプリケーションの可用性や応答時間、実際の動作をリアルタイムで把握できます。
例えば、ログイン処理や商品購入といった操作をスクリプト化し定期的に実行することで、正常に動作しているかを確認します。外形監視は以下の点で効果的です。
- API監視だけでは発見できないUI上の問題を検出
- ユーザー体験をリアルに再現し、実際の挙動を監視
- サービスのパフォーマンス改善や障害の早期発見
特にユーザーが頻繁に利用する機能や操作フローを定期的にチェックすることで、サービス品質を高い水準で維持できます。SaaSサービスの監視では外形監視の導入がユーザーエクスペリエンス向上の鍵となるでしょう。
SaaS監視における課題と解決策
SaaS監視ではマルチテナント環境の複雑さやデータの可視化、適切なアラート設定が課題になります。リソースの共有により問題の特定が難しく、可視化不足は運用効率を低下させます。解決策として監視データをリアルタイムで分析・可視化し、適切な閾値でアラート設定を行うことが重要です。これにより障害の早期発見と迅速な対応が可能になり運用の最適化が図れます。
マルチテナント環境での監視課題
マルチテナント環境では複数のユーザーが同じインフラを共有するため、他ユーザーの利用状況がパフォーマンスに影響を与えることが課題です。例えば、あるユーザーが大量のデータを処理している場合、他のユーザーのアプリケーションの動作が遅延する可能性があります。
こうした問題を解決するためには、New Relicのようなツールを活用し以下のポイントを監視することが有効です。
- テナントごとのリソース使用状況の把握
- パフォーマンス低下の原因特定
- リソース配分の最適化
これらのツールはテナントごとの使用状況を可視化し、異常を迅速に特定することでリソースの公平な配分をサポートします。また、アラート機能を設定すればパフォーマンス問題が発生した際に通知が届くため、早期対策が可能です。マルチテナント環境ではリソースの監視と調整がシステム全体の安定稼働を支える鍵となります。
監視データの可視化と分析
監視データはシステムの状態を把握する上で重要な情報ですが、そのままでは問題点の特定が難しい場合があります。そのため、データを可視化し分析することが不可欠です。
- ダッシュボード
リアルタイムでCPU使用率やネットワークトラフィックなどを表示し瞬時に状況を把握 - レポート機能
過去のデータをもとに傾向を分析しシステム改善のポイントを特定
例えば、過去の傾向データを分析することでピーク時の負荷増加を予測し、事前に対策を講じることができます。ダッシュボードとレポートを効果的に活用すれば異常の兆候を早期に検知し、予防的な対策が可能です。監視データの可視化と分析はシステム運用の効率化と安定化に直結する重要なステップです。
アラート設定と通知
異常発生時の迅速な対応はシステムダウンタイムを最小限に抑えるために欠かせません。適切なアラート設定と通知システムを構築することで、問題の早期発見と対応が可能になります。アラート設定の例は以下の通り。
- CPU使用率が80%を超えた場合
- APIの応答時間が特定の閾値を超えた場合
通知システムではメールやSMS、Slackなど、適切な通知手段を選ぶことで、担当者への迅速な共有が可能です。アラート設定のポイントは閾値を適切に設定することです。閾値が低すぎると誤検知が増え、高すぎると本当に必要な通知が遅れるリスクがあります。そのため、システムの状況に合わせて定期的に見直し最適化することが大切です。適切なアラートと通知の仕組みは問題対応のスピードを向上させ、システムの信頼性を高める基盤となります。
SaaS監視導入の成功事例
SaaS監視の導入成功事例として、Site24x7やNew Relicが挙げられます。Site24x7の活用によりコスト削減に成功したケースや、New Relicを使ったアプリケーションパフォーマンス最適化の事例は、導入効果の高さを示しています。
Site24x7導入によるコスト削減事例
株式会社ハンモックの事例では、Site24x7の導入により以下の効果がありました。
- 監視コストが6分の1に削減(98,000円/月から約16,300円/月に)
- アラート対応の工数が全体で3分の1に減少
- 新規サーバー追加の作業時間が30分から10分に短縮
- 数百台のWindowsサーバーの設定修正作業が一元化され、運用工数が100分の1に削減
また、AzureとAWSの異なるプラットフォーム上のサーバーを共通のエージェントで管理できるようになり、運用効率が向上しました。
参照ページ:サーバー数百台の運用工数を100分の1に改善!しかも監視コストは6分の1に
New Relicによるアプリケーションパフォーマンス最適化
ある企業の事例では、New Relicの活用により以下のような効果がありました。
- ダッシュボードでのリアルタイム負荷監視とアラート通知
- APM(Application Performance Monitoring)によるパフォーマンスボトルネックの特定と改善
- トランザクション監視による遅いエンドポイントの特定
- データベース調査による遅いSQLクエリの発見とN+1問題の検出
これらの機能を統合的に活用することで、システムの安定性を大幅に向上させることができました。
参照ページ:自社プロダクトでのNew Relic活用事例
SaaS監視導入前のポイントと準備
SaaS監視を導入する際には効果的な監視体制を構築するための準備とポイントを押さえておく必要があります。監視ツールの選定や要件定義を適切に行うことで導入後の運用がスムーズになります。
自社の監視要件を明確化する
SaaS監視を導入する前に自社の監視要件を明確にしましょう。まずは、監視対象(インフラ・アプリケーション・ユーザーエクスペリエンスなど)を具体的にリストアップし、必要な機能を整理することが重要です。例えば、API応答時間やリソース使用量を重点的に監視したいのか、リアルユーザー監視(RUM)に注力したいのかによって、選ぶツールや手法が変わります。また、事業規模や運用体制に応じて監視ツールの機能とコストのバランスを検討する必要があります。
監視ツールの選定基準を設定する
SaaS監視ツールは数多く存在しますが、導入にあたっては選定基準を明確にしておくことが不可欠です。具体的には、以下の要素を考慮しましょう。
- 機能:APM機能、外形監視機能、ログ監視機能など
- 拡張性:将来的な監視対象の増加に対応できるか
- 操作性:ダッシュボードの分かりやすさやレポート機能の充実度
- コスト:ライセンス費用や運用コストとのバランス
複数のツールを比較し、自社のニーズに最適なものを選定することで、効果的な監視体制を構築できます。
監視データの効率的な活用方法
SaaS監視で収集したデータを活用することで、運用効率の向上やパフォーマンス最適化につなげることが可能です。データの活用方法を工夫することで監視の効果を最大化できます。
監視データを活用したトレンド分析
収集したデータをもとにトレンド分析を行うことで、システムのパフォーマンス傾向やリソースの使用状況を把握できます。例えば、過去数カ月間のデータからピーク時のリソース使用率を予測し、事前にインフラの増強や負荷分散を実施することが可能です。また、パフォーマンス低下が発生しやすい時間帯や要因を特定し、改善のための具体的なアクションを導き出せます。
SLA(サービスレベル合意)の評価と改善
SaaS監視データを活用して、SLA(サービスレベル合意)の遵守状況を評価しましょう。可用性やレスポンス時間を数値化し定期的にレポート化することで、サービスの品質向上に役立てることができます。特に問題が多発している部分を特定し改善することで、SLAの達成率を向上させることが可能です。
セキュリティリスクと監視の重要性
SaaS環境ではセキュリティリスクへの対応が不可欠です。監視を通じて不正アクセスやデータ漏洩などのセキュリティリスクを早期に検出し、被害を最小限に抑えることができます。
不正アクセスの検知と監視
クラウド環境では複数のユーザーがアクセスするため、不正アクセスのリスクが高まります。監視ツールを使いログイン履歴やアクセスパターンをリアルタイムで監視することで、不審な動きを早期に発見し対応できます。例えば、通常とは異なる時間帯や場所からのアクセスを検知した場合、即座にアラートを出しセキュリティ強化を図ることが重要です。
データ漏洩を防ぐための監視
SaaS環境でのデータ漏洩は企業にとって致命的なリスクとなります。監視ツールを用いてデータ転送量や操作ログをチェックし、異常なデータアクセスを特定することが効果的です。特に大量データの一括ダウンロードや権限外アクセスが発生した場合には、すぐにアラート通知を設定することで被害の拡大を防ぐことができます。
まとめ
SaaS監視はクラウド環境における安定稼働を維持し、システムの品質向上を実現するために欠かせない取り組みです。基本的なリソース監視からアプリケーションの詳細なパフォーマンス監視、外形監視までを組み合わせることでダウンタイムを最小限に抑え、ユーザー体験を向上させることが可能です。
特にマルチテナント環境では他のユーザーによる影響を監視し、リソースの公平な配分を行うことが重要です。また、収集したデータを可視化し傾向分析やアラート設定を適切に行うことで、システム障害の予防や早期対策が実現できます。
SaaS監視は単なるシステム管理の手法ではなくビジネスの信頼性を支え、事業成長を後押しする基盤ともいえます。この記事で紹介したポイントや手法を参考にし自社に合った監視体制を構築して、安定したサービス運用を目指しましょう。